全球観察

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書評『ガイトナー回顧録』

気分転換に久しぶりにリーマン・ショック前後の本を読みたく、折角なので分厚いガイトナー回顧録を読んでみました。ある種のアウトサイダーが究極のインサイダーとして活躍した不思議な本でした。
その象徴が、リーマン・ショック時に「資本注入が重要(不良債権処理ではなくて)」「資本注入をするとしても、ストレスチェックが重要(国有化ではなくて)(p400,p405)」「債権者に負担させない(p275)」「緊縮財政はNG」のような特殊なポジションを取っていたこと、そしてそれらが恐らく正解であったことでしょうか。

このようなポジションを取れたのは、日本での駐在経験があったからだと思いますが、どのような洞察をしていたのかは詳しくは分かりませんでした。ただ、リーマン・ショック後のギリシャ危機時にドイツの対応を見ると、こうしたポジションを取るのが難しいことが示唆されています(p555)。
米国議会とのやりとりはこの当時からここまで議会が分断されていたのか、という点はびっくりしましたが、それでもこうした直観的には間違っているポジション(p17,p623)を財政政策として展開できたアメリカの民主主義も興味深い気がしました。日本のバブル崩壊後に宮澤喜一氏が早くから資本注入の重要性に気づいていたのに、それが実現可能になったのはかなり後であったことも想起しました。中国が不動産バブル崩壊したときに、日本の教訓を沢山分析しているとは思いますが、こうしたポジションを取れるのでしょうか。

金融機関の自己勘定取引に対する規制であるボルカー・ルールもそこまで意味ないが議会との取引のためにボルカーを味方につけたかった趣旨の記述(p513)も興味深かったです。リーマン・ショックというか世界金融危機はグローバルな流動性危機である側面もあると思いますが、バーゼル3のような枠組みを作りアメリカでのその規制主体をFRBにしたことが重要だったようです。

個人的に気になったのは、財務長官就任後の金融機関のstress test(本書の原題)のなかで資産評価の難しさを語る記載が多い(p361,p433)わりに、ニューヨーク連銀総裁時代のリーマン・ブラザーズの資産評価は結構テキトーに見えることでしょうか。また、ベア・スターンズの救済はモラルハザードを生み出さないというならば、リーマン・ブラザーズの救済もモラルハザードを生み出さない気もしました。そもそものベア・スターンズの救済も急ぎすぎていた気もします(P194)。

また、ニューヨーク連銀総裁時代の管轄であったciti groupが度々デフォルト危機っぽくなるのも気になります(p317,p383)。AIGの資産評価はバフェットが大丈夫と言っていたから大丈夫、みたいな記述(p247)もあり少しびっくりしました。日本だったらその時点で行政手腕が疑われると思うのですが、アメリカではそれでもインサイダーになれたようです。

個人的に良く分からなかったのは、

サブプライムローンのデフォルトが何故全住宅市場に影響したのか(p144)

CDOの格付けは結局どれくらい間違えていたのか(p171)

・ストレステストを公表した次の月がアメリカの大不況の最終月(2009年6月)だったとき(p449)にストレステストの公表は結局どの程度意味があったのか

あたりでしょうか。

 

住宅のforeclosureの対象となったのは500万世帯ほどだったようですが、毎年の出生数が300万人程度・結婚数が250万件程度であるときに、毎年創出される新規の需要と比べて極端に多いというわけでもないように思います。

財務長官時の住宅政策は雇用を生まない趣旨の記述(p476)も、今のアメリカの住宅供給の少なさの遠因である気もしました。ただ、少なくとも住宅価格の下支えにはなったのたと思います。

https://fred.stlouisfed.org/series/HOUST1F

オバマ政権の経済政策であった「グリーンニューディール政策」のようなものは実際にどれくらい意義があったのかも興味があります。amazon.comiPhoneが絶好調であったことなど、その後のビックテックの興隆が無ければ今頃どうなっていたのでしょう。

FRBMBSを資産から無くしたとき、ファニーメイフレディマックが民営化して再上場したときにサブプライム問題は完全に過去のものになると思われます。そのときにまた読んでみようかなと思います。

 

 

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