2006~2008年のアメリカ大統領選に関する本です。非常に興味深く読めました。
これを読むとオバマ氏が勝利したのは、自身の才能もありつつ、敵失や時代の流れなども大きかったのだなと感じました。
ひとまずマケイン氏がサラ・ペイリン氏を副大統領にせざるを得なかった状況が不思議でした。トランプ氏の台頭を示唆していたとも言えるかもしれません。
オバマ氏の才能
まず2008年1月3日のアイオワ州予備選挙に集中投下して勝てたことが、大きかったことがわかります。
そこにリソースを集中投下するという意思決定、演説の上手さ、適切な資金調達、選挙チームの組織力、そして何よりこれまで選挙に行っていなかった人たちを選挙に行かせた点などはオバマ氏の稀有な才能を感じました。
有名ではなかったオバマ氏は、資金調達→選挙で勝つ→有名になる→さらなる資金調達のサイクルを効果的に回すことで、少しずつスターダムを駆け上がります。
敵失
オバマ氏以外のどの陣営も途中で選挙チームで解任・辞任が多発しているのが不思議でした。
・ヒラリー陣営は夫のビル・クリントン氏の介入やスキャンダル、チームの組織力の下手さ(p106)などが目立ちました。
・ジョン・エドワーズ陣営は「労働者階級出身」の強みはありつつも、こちらもチームの組織力の下手さやエドワード夫妻の性格の問題、そして隠し子スキャンダルで撤退を余儀なくされました。
・マケイン陣営は、こちらもチームの組織力の下手さもありつつ、資金調達も苦戦していました。ロビイストとの関係や不倫疑惑に関するnytimesの超大作の記事も出ました(p330)。サラ・ペイリン氏を副大統領候補にすることで一発逆転を狙いましたが、その賭けは外れました。ペイリン氏が内部で"diva"と揶揄されているなど内部分裂を示唆する報道はマケイン氏の有力な支持者からのリークでした(p436)。また、リーマン・ショック時にTARP法案を支持するべきでしたが、何もせず多くの失望を買いました。
時代の流れ
・イラクやアフガンに軍隊を派遣している戦争状態のアメリカでは、オバマ氏の2002年のイラク戦争反対のスピーチはあるべきアメリカの姿の象徴にも見えました。ヒラリー氏は上院議員時代にイラク戦争に賛成の投票をしましたしその後の投票行動も含めて、リベラルな支持層から反感を買いました。なお、オバマ氏も上院議員になってからはヒラリー氏とイラク問題に関する投票記録は大きく変わらなかったようです(p102)。
・ハリー・リード氏などヒラリーでは勝てないと考えている民主党の重鎮が一定数居た p48
・2008年のリーマン・ショックへの対応で、マケイン氏とは違いオバマ氏は優れたリーダーシップがあることが示唆されました(p401,p412)。それは2008年10月の共和党の黒人の重鎮パウエル氏のオバマ氏支持などにもつながったようです。
メモ
・マケイン氏もヒラリー氏もオバマ氏のことを当初は日和見主義者だと感じていた p340
・バイデン氏はオバマ氏の政策を薄っぺらくレトリック的だと感じた p432
・2007年8月にオバマ氏はパキスタンを攻撃するべき趣旨の発言をした p124
・対立陣営が「人種問題」を持ち出したという構図で「人種問題」をオバマ陣営は仕掛けている(nytimesの2008/1/9の社説、 2008/1/11の記事)とビル・クリントン氏は感じていた p205 p218
Bill Clinton Accuses Obama Camp of Stirring Race Issue - The New York Times
・オバマ氏はクリントン陣営から黒人票を譲られることで、黒人の利益を代表するだけの議員のようなイメージをつけられることを警戒した p221
・オバマ氏は長年お世話になっていたライト牧師の過激発言の対応に苦労した p256
・多くの有権者は「何が真実か」ではなくて「どう反応したか」を知りたがっている p217
・2008年7月の世論調査では有権者では「経済」が一番重要な関心事項だった。 p342
・マケイン氏は政府から助成される公的選挙資金8400万ドルで戦った。オバマ氏は公的選挙資金を拒否して自分で資金調達をして6億ドル集めた p343
・クリントン氏は選挙期間中の1200万ドルの借金をオバマ氏に肩代わりしてくれないか期待した p274
・ジャーナリストの
オバマ氏はいつから医療保険改革を言い始めていたのか(2008年1月27日のエドワード・ケネディ氏からの支持との取引?)、"yes we can"はいつから始まったのか、イラク・アフガンについては選挙期間中はどのような議論があったのか(p58,p109,p124,p345)辺りはもう少し詳しく知りたかったです。
アニュアル・ハーキン・ステーキ・フライ p68
2008/4/25のBill Moyers氏によるライト牧師へのインタビュー