全球観察

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書評『決断のとき』

ブッシュ大統領回顧録です。個人的にかなり印象が変わりました。

イラク戦争前に相当な外交努力をしていた(p42)ことを感じましたが、サダム・フセインは何故国連の調査に協力しなかったのでしょう。トルコが基地を使わせず外交的に裏切った趣旨の記載(p46)があり、もしこれが日本だったらどうなっていたか少し心配になりました。

アフガンへの攻撃は911があった後なのでしょうがないかもしれませんが、一部のイスラム教徒がアメリカを敵対視していた理由は人口ボーナス期の一時的な現象(団塊世代の安保反対)のような気もして、適度に関わらない選択をする方が良かった気がします。

イラクにしろ、アフガンにしろ日本政府は上手な距離感でアメリカと関わっていたのだなと感じました。

当時は、いろいろな陰謀論があった記憶ですが、もしアメリカ政府がテロリストをコントロール出来るならば、ヨーロッパ等の国でもテロを起こさせても良かった気がします。結果として、そうした大規模なテロはほとんどなかったですし、イラク・アフガンへの軍事作戦で国際協調に苦戦している点(p319)からも、そうした陰謀論が疑わしい印象を増しました。

TARP法案周りで新しい発見は無かったですが、「小さな政府」などブッシュ氏の直観と反する政策を、ロシアがグルジアに侵攻しハリケーンがテキサスを襲いイラク・アフガンで戦争を遂行しているとき(p344)に、ここまで大胆に推し進められたのは凄いなと改めて感じました。世界金融危機の原因ともなったファニーメイフレディマックの改革法案を数年前から提出していたのに18回目の提出にしてようやく成立したのも、アメリカの議会政治の難しさを感じさせます(p339)

ブッシュ氏がやりたかったことの一つが「社会保障制度」改革だったのも意外でした。破綻する制度に若い世代がカネを払うのはフェアではない(p114)、という政治家が日本でも増えてほしいです。

移民法案も否決されました(p126)が、この頃にこうした法案を成立させていればアメリカの分断はもっと少なかったかもしれません。

極端なイデオロギーの影響を弱める方法として、党内競争のあり方を変えることや選挙区の線引き手続きを変えることなどが提案されているのも興味深いです(p128)。

ハリケーンカトリーナで露呈した州知事連邦政府のコミニュケーション不足、軍隊の派遣の権限問題などは日本にとっても他山の石かもしれません。州知事に拒否された軍隊の派遣を、法の執行権を与えないなどの条件付きで、決断するもの凄いです(p151)。

イラクへの増派の決断も興味深いです。最初から大量の軍を派遣できていたらどうだったのか、アメリカの世界の警察としての限界も感じます。

幹細胞研究倫理周りの話も興味深かったです。

全体的に、ここまで「神」という言葉を使っているとは思わなかったので、少し意外でした。

 

 

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