全球観察

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書評『約束の地』

オバマ大統領の大統領一期目の回顧録です。この本がもし単なる小説だとしても充分面白い気がしましたが、実際に世界で起こったことに対する世界で最も権力を持っていた方からの観点が記載されている本であり、非常に楽しめました。

ところどころに表現されるオバマ氏のどこにもぶつけられないような感情(p180,p319)、それが彼のエネルギーの源泉でもあるのかな、という気がしました(p123)。

アメリカ社会は分断しているかのような記述も散見されましたが、実際にどのような分断が発生しているのかは、良く分かりませんでした。それは自身を統合のシンボルとするための記号的な操作なのか(p76)、連邦議会の運営ルールの問題なのか(p378)、本当に何らかの深刻な分断が発生しているのか。。。

リーマン・ショックからの回復」「医療保険制度改革」「メキシコ湾の原油流出事故の拡大防止」など卓越した結果をもたらした反面、「医療保険制度改革」で政治資本を使いすぎた印象です。もしかしたら「医療保険制度改革」はもう少し後回しにしてまずは雇用の回復を優先させた方が良かったのかもしれません。「医療保険制度改革」に限らず何らかの新しい法案で投票を躊躇っている議員へのバーターの取引が雇用に関連するものが多いのも(p417、下p95)、不思議な気もします。

あと。オバマ氏のクリーンエネルギー政策が無ければテスラのような会社は生まれてこなかったのかもしれないと思いましたがどうなのでしょう。

p282にあるサブプライムローン周りの記載は微妙に間違っている気がしました。住宅ローンが証券化されるようになったのは数十年前、融資基準は必ずしもゆるくはなっていない(が融資基準が甘いサブプライムローンのような商品は生まれた)、AAAの格付けを得られるMBSばかりではない、MBSの種類によっては貸し倒れリスクを適切に分析出来ていたetc ブッシュ大統領のGSE改革法案民主党が反対したことに触れないのも少しフェアではない気がします。

また、p378にあるように財務長官就任時にティム・ガイトナー氏は「具体的に何をすれば効果的なのか」を分かっていなかった、というのも興味深いです。p440やp462に当時の意思決定プロセスが記載されていますが、ガイトナー氏の分厚い回顧録よりも遥かにわかりやすかったです。

アフガニスタンイラクに注いだリソースを少しでも国内に使えば、どれだけ豊かな国になれていたか、というような記載(下p528)が印象的でした。また、もし冷戦後にアメリカが温暖化との戦いに挑んだら世界のオイルマネー独裁政権はどうなっていたか、などの記載(下p255)も興味深かったです。アメリカ人は国内の状況の改善には膨大な政府リソースを使うような気分にはならないのが不思議です(p13)。敵が居ないからでしょうか。

個人的にはこういう政治家が共和党から出てきたら面白い気がしました。例えば、ミシェル・オバマ氏が共和党から大統領候補として出てくるような展開は難しいのでしょうか。

 

メモ:

・ハーバード・ロースクール卒業後に職を探してたどり着いたシカゴではハロルド・ワシントン氏は初の黒人市長とするような1983年の運動があった。ちょうどハロルド氏の一期目が終わった頃に移り住み、そうした運動は組織力が無いと持続可能ではないことを学んだ p39~p40

・1995年にミシガン州上院議員立候補の話が出てきた。地元の有力な市会議員であるtoni preckwinkle氏も支持してくれた。 p51

・2000年の連邦下院議員選挙では黒人のBobby Rushに30ポイント差で敗れた。 p71

・大敗した数年後に、2004年の連邦上院議員選挙への挑戦意欲が何故か湧いた。 p77 2003年に州上院議長に就任予定の大物黒人政治家のEmil Jones氏などは支持してくれそうだった p79

・2002年にイラク戦争に反対した演説が先見性のある内容だったとして評価された p86

・2004年初頭の時点で"yes we can"を含むテレビ広告を作った。テレビ広告で支持率が2倍になった。 p89

上院議員の予備選では様々な地域、様々な人種から票を得ていたことが注目を浴びた p90 2004年7月の民主党全国大会で基調演説をしてほしいと、大統領候補のジョン・ケリー氏から連絡があった。 p91 2004/11/3にイリノイ州上院議員当選した

・2007/11/10のアイオワ州のJJ Dinerのイベントでの演説の反応を見て、アイオワ州で勝てるだけでなく、民主党の大統領候補になれると確信した p171

・ヒラリー氏との戦いではオバマ氏が麻薬取引に関わっていたなどの情報を流したヒラリー陣営の方が辞任に追い込まれたりした p173

・選挙期間中に訪れた黒人生徒が多数を占めるようなボロボロの学校を見て、執念深くのしかかってくる過去の重たさが敵なのだと感じた p211

高所得者への増税を財源に、教育・研究・インフラ設備・労働組合の強化・国民皆保険制度の提供・大学授業料引き下げなどを主張した p286

・選挙期間中に使った「富を広げる」という言葉が共産主義を連想させるとして、少し問題("joe the plumber")になった p312

リーマン・ショックから経済を立て直したことは、一方でウォール街の文化を温存した・一握りの億万長者の利益に奉仕したなどの批判もある p480

・軍病院で負傷者と面会した際に、「人間というものは無意識に憎しみを煽り、残虐さを正当化し、よき者でさえも殺戮に加担させる」ことを理解した p509 ドイツのユダヤ強制収容所への訪問も同じような感覚を想起させた 下p60

・ゼロからスタートできるならば、医療保険制度は単一者支払制度にしたい。現実的には共和党ロムニー氏が州知事だったマサチューセッツ州の制度の国家版のようにするしかなかった 下p80 下p126

・最終的に出来上がった法案は「パブリックオプション」を含まず、労働組合が反対するキャデラック税は削除され、保険を購入できる窓口は単一市場ではなくて州ごとの取引所になった 下p138 下p132

ハーバード大の黒人の教授であるゲイツ氏の自宅での逮捕は非常に残念に感じた 下p99 このときのコメントで白人有権者からの支持率は落ちて回復することは無かった 下p102 「この国の社会秩序基盤が決して単純な合意によって築かれたわけではなく、白人からの、黒人や褐色の肌をもつ人々に対する何世紀にもわたる国家ぐるみの暴力によってなりたってきたという事実である」 下p103

・APRA-Eのようなエネルギー分野でのハイリスクハイリターン投資を行う政府機関を復興法の予算を使って立ち上げた 下p239

ブッシュ減税の2年間の延長共和党との交渉材料になった 下p392

イスラエルパレスチナの関係が悪化するとイスラム世界での反米感情が高まる。アメリカの外交官はアメリカの政策と相容れない政策を展開するイスラエルを擁護する苦しい立場におかれる。彼らの関係が改善すると、アメリカを人権の擁護者として世界でより信頼される国に出来る。 下p422

 

オバマ政権の住宅ローン政策に反対のリック・サンテリ氏 p430 下p112

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Obama Family Home in Hyde Park | Enjoy Illinois

テスラ、政府融資4億5,000万ドルを9年前倒しで完済 | WIRED.jp

 

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