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書評『中国農村の現在』

これまであまり良く分かっていなかった中国の農村に関して解像度が上がる本でした。

中国の1980年代の土地政策で農地を均等に分配したことが、1990年~2000年頃の「農民工」の大量発生につながった(p39)、との指摘が興味深かったです。

中国はサッカーとか集団スポーツが苦手なイメージですが、その背景もなんとなく分かったような気がします。根本的には、中国は歴史的に社会の流動性が高く(p37)、「地縁」のようなつながりは揺らぎやすかったので、「血縁」が非常に重要になったようです。そのためか、地域やその他の中間組織でまとまるのが難しいようです(p79)。実際に「村八分」のような概念はないようです(p95)。

ただ、農村にも「コモンズ」とかあるよう(p81)ですし詳細は良く分からないです。「血縁」が無い他の農村に移住するのがどれくらい難しいのかも良く分からず。農村地域での強制収用がそこまで簡単ではなさそうだったのも興味深かったです(p125)。

2006年頃に中国政府は農村政策は大きく変えたようで、農村地域に補助金が沢山流入するようになったようです。また、脱貧困関連の扶貧予算もあるようで、それをどう農村内で分配するかも難しいようです(p223)。そうした分配を決める農村地域のリーダーは選挙で選ばれる、というか中国で唯一民主的な選挙があるのが農村で、その背景としては中国共産党の土地革命の過程で農村地域の支持を取り付けつつ農村地域にスパイが侵入するのを防ぐ(p171)というような経緯があったようです。また、その選ばれる農村地域のリーダーは政治家というよりは官僚であるようです(p155)。中国では個人の利害を代表するような中間組織はほとんど無いようで、確かに「農林族」みたいな概念はなさそうな気もします。

習近平政権以降の農村政策は、「脱貧困」というような感じのようです(p251)。それは、貧困地帯が山岳地帯という地理に原因がある観点から、都市部への「強制移住」というような政策になるようです。また、そのときの都市部とは小都市のようなところで、そこに10億人程度が今後まったり住むことで、政権は安定する可能性が高いとのことです(p262)。

なお、『小さき麦の花』という農村での小さな幸せを描いた映画が最近中国で配信中止になり、何らかのタブーに触れていたようです。ただ、本書の解説を読んでも何故この映画が配信中止になるのかが全く分からず、というより本書の第四章にあるような中国農村調査の失敗ではないですが、中国を理解するのは本当に簡単ではないなと、改めて実感しました。

一条yitでたまに見る中国農村の美しい建築 とか客家の世界とかももっと知りたくなりました。毛沢東は農村でどれくらい人気なのかとか中国共産党がこれまでの政権と農村政策で何が違ったのかとかその辺も興味深いです。

 

 

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