非常に面白い本でした。この年齢でこの本を書ける野口さんは只者でないと改めて実感しました(同時代をのんびり過ごしていた自分が少し情けなくなります)。
中国政府が「デジタル人民元」を発行しようとしている前提で、その通貨覇権が貿易決済やアプリ内での決済(e.g 皇包車アプリを使って日本国内でタクシー配車を依頼)などを通じて日本円の経済圏にも浸透する可能性を理解しました。「デジタル人民元」の全取引は中国人民銀行に送信されるそうですが(処理件数はどの程度になるのでしょうか)、オフライン取引も可能そうなので中国人民銀行のIPアドレスを通信遮断するとかをしても、日本円の経済圏でその利用を止めることは難しい気がしました。
一方で、日本政府/日本銀行が「デジタル円」を発行しようとしても、既存の地方銀行や乱立する電子マネーなどへの経営的打撃を考慮すると難しいかもしれないのが興味深かったです(e.g 地方銀行は預金流出の可能性、電子マネーは利用手数料ビジネスモデルが成立しない可能性)。
今、日本で生活する限り、人民元を使って生活する必要性は0で、中国製のもので欲しい物も0なのですが、何らかの条件が揃うと「デジタル人民元」も良いかな、と思える日が来るでしょうか。
中国政府と同じような問題意識を持っていると思われるインド政府は、UPIなる毎秒2200件程度処理できる小口決済基盤を運用していますが、それをシンガポールのPawNowなる決済システム基盤と接続したりと国際展開しているようです。そんなインド中央銀行も「デジタルルピー」を2023~2024年に掛けて発行するようですが、「デジタル人民元」とどのような勝負になるでしょうか。
そもそも国家や中央銀行が通貨発行権を独占する社会経済は健全なのか(e.g 高齢者医療のために国債を乱発し、生まれてもいない次の世代が国債費を負担)、銀行が審査した住宅ローンで建てた家が空き家になって地域の負担になっているのではないか、銀行住宅ローンが無くなるときに住宅資金は債券発行で賄われるのか、信用創造が無ければ資本主義経済は成立しないのかなど色々と考えるキッカケになりました。
そういえば、中国もバブル期の日本みたいに「土地本位制」で不動産バブルを形成しているみたいですが、アリババやテンセントが行っているようなAI与信は土地を持っている者が更に豊かになるような社会システムをどう変えたのでしょうか。