知らない中堅役人さんの伝記でしたが、結構面白かったです。
限られたリソースでのコスパ重視?
ライブドア事件など、「課徴金」で良いのではとか、「堀江主犯」にするために真実が捻じ曲げられていないか(p133)、検察の捜査でライブドアの「株価暴落」とか乱暴すぎるのでは、とか気になっていましたが、この当時から近いような懸念はあり(p130)試行錯誤しているのだな、というのが分かりました。
ただ、「複雑な金融商品や新規な金融商品に対応する力がない」(p239)ので限られたリソースで成果を出せるコスパ重視な検査・捜査になるのだと思います。なぜSECみたいに2000人の職員(p41)を抱える組織とか作れないのでしょうか。
今だと、外国人アクティビティストの取締役と「インサイダー取引」、SNSを使った相場操縦とかありそうですが、限られたリソースのコスパ重視では全貌を明らかにするのは難しいかもしれません。
過去の事件簿の来歴
山一證券も当初は「飛ばし」ではなく訴訟をしようとしていたが大蔵省幹部との会話で方針を変えた(p39)、山一證券は「飛ばし」スキームを提供したクレディスイスからの資金支援の交渉をしていたが裏の財務諸表を全て知っているクレディスイスから断られた(p67)、オリンパスでは損失を作った経理部長が寧ろそれを隠蔽するために昇進した(p192)、東芝の会計不正問題は捜査方針が間違っていた可能性(p126)とかの過去の事件簿の来歴も興味深かったです。
なぜ結局護送船団方式ぽくなるのか?
暗号資産に対する金融規制(p254)が何となく護送船団方式ぽく見えましたが、そもそもプレーヤー側のレベルがそんなに高くないところに根本的な原因がある気もしました。それにしてもこんなに地場証券(p232)とかで問題があったんですね。
日本の独特の金融行政ですが、結局他国からはあまり参考にされていないようです。
失われた年金主導のイノベーション機会
あと、当時の年金基金はこんなに怪しい会社にたくさん投資していた(p176,p239)のが軽くショックでした。エリザ法のアメリカではないですが、そのカネでVCやスタートアップに投資してくれればよかったのに。。。
日本の特色ある立法
p17の「支援よりも反対勢力の方が強い状況のもとで困難な調整を重ねながらも,行政当局として銀行法の個別部分改正でなく,あくまで全面改正を目指す立場を保持したのは,すでに述べたようにそれぞれのグループが利害要求をもっている中で個別に部分改正を取り上げていくのは弊害を多く生むであろうと判断」は『昭和財政史』という本の引用のようですが、金融だけでなく日本の立法で度々見る光景な気がします。
課徴金制度は1998年頃には謎の反対で導入見送り(p148)でしたが、結局導入されました。
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