2023年6月13日のGEの株価が106ドルぐらいなのですが、それは27年前の1996年頃の水準であり、23年前の2000年につけた高値の21%程度と、「衰退」してしまったGEの歴史に関する本です。
uberのときもそうだったのですが(ちなみにGEのイメルト元CEOはuberのCEO候補でした)、アメリカの新聞社系ジャーナリストの企業本は本のテーマに関する事実をひたすら並べるみたいなスタイルで、少し読み辛さはありました。アメリカ人からすると、ソニーがリストラしまくっていたときの「切り捨てSONY」みたいな本でしょうか(この本出版後ぐらいからソニーは復活しますが)。あと、多分基本的に公開情報を並べただけであり、何か機密情報があるわけではないと思います。
「衰退」の中身としては、BtoB製造業ビジネスと金融ビジネスの事後的に判明した相性の悪さ(p148,p157,p170,p186)、BtoB製造業ビジネスの長期メンテコストの現在価値の会計操作(p11,p357)、BtoB製造業ビジネスにIoTを組み合わせた「GEデジタル」の失敗(p314)、保険ビジネスの準備金不足(p105,p421)、石油ビジネスへ謎の突入(p308)、仏アルストムののれん減損(p286)、無駄な自己株買い(p182,p271,p413)、などが挙げられていました。
確かに、CEOの強すぎるリーダーシップ、取締役会が機能していない(p429,p460)、株価に連動しすぎる報酬体系などはその原因なのでしょうが、BtoB製造業ビジネスがなぜ金融ビジネスを始めたのか、あたりに根本的な原因がある気もします。それはGEという信用による資金調達のコストの低さ(p260)のわりに製造業として株価が高めに評価される(p232)点、SPCなどを上手に使いオフバランス化(p78)や債権の証券化?(p359)で会計操作出来る点などに由来するのでしょうか。
金融ビジネスは、リーマンショックではバフェットに助けられましたが、売却先を探していたところ不動産系に関しては230億ドルでブラックストーンに買収されました (p265)。個人的には、全世界での多種多様な物件を持つ不動産系の金融ビジネスをブラックストーンが何日ぐらいで資産査定したのか(一週間ぐらい?、3月中旬にアプローチがあってから4週間以内に契約締結?)、なぜこのような買収スキームとなったのか、は知りたかったですがあまり深くは書かれていませんでした。ブラックストーンにとっては簡単に扱えるようなビジネスをGEに手こずっていた、とGEの「リーダーシップ」のあり方どうなの?みたいなことが一番言えるところだと思うのですが。
なお、2017年ごろからアクティビストの機関投資家Trianが取締役席を一つ獲得しています(p405)。東芝のような「おかわり地獄」になっていないことを祈ります。
この本を読むと傘下に銀行・保険・音楽・映画がありながらもPS5なりcmosなりイノベーションも生んできたソニーの経営が比較的健全に見えるのは面白い気がしました(ちょうど今ソニーとGEの時価総額が15兆円前後で同じくらいですが)。日本ではGE式「選択と集中」が礼賛されがちですが、この本ではところどころトヨタ生産方式が礼賛されているのも不思議でした。日本電産みたいに製造業でM&Aが連続で成功して大きくなる事例は案外珍しいのですかね。
ストックオプションと自己株式取得の組み合わせは短期キャピタルゲインへのインセンティブが強いので、従業員の持ち株の配当に対する優遇税制とかが次の流れでしょうか。
Exclusive: GE seeking to shed troubled insurance business - sources | Reuters
Amid contraction talk, GE's insurance operations expanded | S&P Global Market Intelligence