全球観察

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書評『アメリカ金融革命の群像』

アメリカの個人向け金融サービスの発展に関する本で、知らない固有名詞が非常に多かったですが、結構楽しめました。

ひとまず「なぜJCBは単なるクレジットカード会社で終わったのか」「なぜ日本ではMMFが普及しなかったか」「なぜ日本のひふみ投信みたいのは中途半端なのか」、みたいな点を考える上でアメリカでクレジットカードなりMMFなりミューチュアルファンドがどう発展していったかを理解していくのは非常に有益に思われました。

また、その流れはP2P送金サービスのzelle,visa/mastercardの即時出金,iaas,baas,手数料無料の証券会社ロビンフッド,手数料無料の銀行chime,多種多様なマイホーム購入の資金調達 etcで現在進行中なのだと思います。日本の個人向け金融サービスが中途半端で営業でゴリ押して売るような方法論ばかりが蓄積されてしまいがちなのも何となく分かった気がしました。シアーズのマネしてクレジットカードを発行したり有楽町店で総合金融的サービスも提供したセゾンがそこまで新しいサービスにならなかったのも何となく理解できました。

 

個人的には、「1974年のエリザ法の影響」「アメリカン・エキスプレスなどのシングルアクワイアラ」「visa/mastercardがどう国際展開したか」「個人向け金融サービスに係る詐欺などの犯罪」「クレジットカードの債権とMMFの貸出の関係」「消費と借金とピューリタン的感情の克服」などはもう少し詳しく知りたかったです。

この著者が2008年のリーマンショック後の2011年に書いた『all the devils are here』に登場する金融機関のその20~30年ぐらい前の素朴?な様子も微笑ましいです。1997年当時はこの著者の本が邦訳されましたが、2011年の本は邦訳されていない点も少し気になります。

 

 

メモ:

・百貨店のSears cardのチャージカードは1950年代に2500万人の保有者(p201,p366,p579)ダイナーズカードなどはすでにあったが、バンク・オブ・アメリカによる「クレジットカード」は顧客側が支払い限度額も決められ支払いのタイミングも決められるなど顧客側の裁量が多い点が重要だった(p43)。加盟店も大量の小切手による支払いの処理などがなくなるメリットがあった。

・当時の銀行法で複数の州で営業することが難しかったが、「クレジットカード」は拠点が無い州でも発行出来た(p84)。また、「利息制限法」も本社のある州法と顧客側の州法では本社のある州法が優先された(p278)

・各州の銀行ごとに「クレジットカード」のライセンス契約をしたものが発展したのが「visa」や「mastercard」(p86)。インターチェンジや認証などの取り決め(p105)やITシステム投資(p153)。各州の銀行が集まって手数料等を決めても独禁法的には問題にならなかった。

MMFFRB金利規制であるレギュレーションQの抜け道となった p119

・1970年代の「インフレ」の経験で「金利」が商品価値になった(p337)。「MMF」や「ミューチュアルファンド」の台頭。1974年のエリザ法により制定された「IRA」口座 も追い風(p409)。

・1970年代の「インフレ」時に銀行のクレジットカード部門は大幅な損失を出した(p277)

・フィデリティは「ミューチュアルファンド」だけでなく「MMF」も提供した。さらに「MMF」に小切手発行機能もつけた(p127)。ファンドが出金しやすくなるが、総合的な利便性の追求(p130)。

・1987年のブラックマンデーによりフィデリティの「ミューチュアルファンド」の預かり残高は減ったが「MMF」は増えた。ブラックマンデーでもベビーブーム世代の中流階級の人たちは株式市場から退場しなかった(p518)。

・1977年にメリルリンチはCMAを発表したが、手数料収入減少を恐れる所属ブローカーの抵抗もあり、それにより集まった資金を必ずしも有意義に商品化出来なかった(p233)

・シュワブは支店を持たないディスカウントブローカーだったが、支店を作ることで取引量が増えた。支店という心理的安全性(p181) 。

・銀行はグラススティーガル法で保険や投信や投資銀行ビジネスをすることに規制があったが、ディスカウントブローカーに何も規制がなかった(p369)。バンク・オブ・アメリカはシュワブを買収。のちにシュワブはMBOして独立。だが、新しい金融サービスの前でのグラススティーガル法の形骸化が示唆された。

・「デビットカード」が相互利用可能になることは各州の銀行の利益を侵害すると思われたため、「visa/mastercard」搭載の「デビットカード」はアメリカではそこまで普及しなかった。ヨーロッパではなぜか普及(p439)。

・クレジットカードでの支払いを毎月律儀に返済する顧客は必ずしも優良顧客ではない。個人情報や信用情報に関する法律の制限を受けつつも、大量のデータから「高額」「リボ払い」「律儀な返済」をしてくれる優良潜在顧客を見つけてDMなどを送り顧客化する方法論が蓄積された(p451)。

 

 

 

Charles Schwab Corporation - Wikipedia

Regulation Q - Wikipedia

 

https://www.nytimes.com/1973/01/07/archives/overnight-mutual-funds-for-surplus-assets.html

 

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