全球観察

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書評『世紀の空売り』

なかなか面白い本でしたが、結局2016年頃に住宅価格は2006年頃の最高値を越えていることを考えると、当時住宅価格が大幅に下落することを予見するのは容易ではなかった、更にその下落が金融市場にも多大なる影響を及ぼすことを予見するのは容易ではなかった、更に下落するとしても適切なポジションを取るのは容易ではなかった、と思います。全体的に、下落は分かりきっていた(+ウォールストリートは腐敗していた)みたいな文章で、その辺の難しさが丁寧に描かれているわけではないと思いました。

S&P/Case-Shiller U.S. National Home Price Index (CSUSHPINSA) | FRED | St. Louis Fed

 

なお、2007年7月17日にFRBバーナンキ議長はサブプライムMBS市場の損失は1000億ドルに満たない見通しを示していました(p260)。サブプライム変動の差し押さえ率は2000年代前半に9%近くなっており、今回のサブプライム危機でも9%には達していなかったように見えますサブプライム固定は寧ろ2000年代前半よりも差し押さえ率は低そうです。

 

https://economistsview.typepad.com/economistsview/2007/10/subprime-forecl.html

 

https://archive.curbed.com/2018/8/29/17788844/financial-crisis-2008-cause-housing-mortgage-lending

 

結局何が「想定外」だったのでしょうか?

個人的には、prime armで住宅を借りていたhome flipperのような人たちの動向が想定外だった気がしていますが、どうなのでしょう。。。

 

メモ:

・moody'sとS&PがトリプルBと格付けしたサブプライムMBSはdefault rateが8%(default後に50%程度回収すると想定すると、元本価格の16%の損失)になると、価値を失う(p111,p366)。

ゴールドマン・サックスがトリプルBのMBSを集めたCDOを格付機関はトリプルAと格付けした(p120)

・SCION CapitalのMichael Burryが購入したCDSAIG・FGから買っていた。想定元本約10~20億ドル(p114,p275)。

AIGは2.5%の保険料のうち、0.12%を受け取った。ゴールドマンは残りを合成CDOにして、それもトリプルAの格付けとなった。ゴールドマンは200億ドルのCDSの2%の仲介手数料を受け取った?(p124)

・Cornwall CapitalのCDSの70%はベアスタンダーズから購入した(p249)

S&Pとmoody'sの不健全な競争。各ローン単位のデータを業者に要求したら、別の格付機関に仕事を回される可能性(p254)

・2007年1月頃にモルガン・スタンレーのHowie Hublerは160億ドルのCDOのトリプルのトラッシュに対するCDSを売った(p304)。貸倒れ率は40%に達した(p311)。みずほ証券は10億ドルとUBSは20億ドル、そのCDOを購入した。UBSは2億ドルのトリプルB債券に対するショートポジションも購入した(p316)

・2007年初頭からjim grantのinterest rate observerというニュースレターでCDSの格付けに対する疑義が提出された(p262)

・2007年6月頃にゴールドマンの相対価格の提示に変化があった。global alphaというファンドでサブプライム関連の損失を出し、ポートフォリオを調整し始めたようだった(p290)

・2008年6月20日にベアスターンズ傘下のファンドの幹部2人が逮捕 (p357)。

・2008年9月16日にFRB連邦準備法第13条第3項に基づき850億ドルを融資する権限を与えられ、財務省AIGの株式の79.9%(本書では80%と記載)を取得すると発表(プレスリリース詳細なスキーム当時の記事、p347)。ゴールドマンが75億ドル相当の担保を保有していたこともあり、政府は最終的に9月末までにこのうち129億ドルを負担した(価格変動による返還分を除くと最終的な納税者の負担は25億ドル)。財務省FRB・ニューヨーク連銀等は1820億ドルをAIGに投入したが、2012年12月に財務省AIG株を売却したときには227億ドルの利益となった

 

 

 

疑問:

クリントン、ブッシュ時代の政治の役割

GSEサブプライムMBSに対する保証が果たした役割。

・地域偏差の理由(p152)。home flipperが果たした役割(p149)。

・リーマンブラザーズの破綻の原因。

・日本でも証券会社が株式上場しているが、証券会社がパートナーシップでないことだけで歪んだインセンティブ構造を説明出来るか。ゴールドマン・サックスなどは何故問題なかったのか。

・バフェットは何故2000年頃のGSE株を売ったのか。

・バフェット傘下のclaytonのデフォルト率は何故2%台だったのか。

・バフェットは何故議会証言でムーディーズを擁護したのか。

ドイツ銀行のGreg Lipmannが4700万ドルの利益、SCION CapitalのMichael Burry、・Front PointのSteve Eisman・Cornwall CapitalのJamie MaiとCharlie Ledleyは数千ドル万ドルの利益を得たで合っているか。

・会計規則では住宅ローンが繰り上げ償還されないとなっていた、とはどういう意味か(p37)。1997年のサブプライム金融業者の大量倒産は何も教訓を産まなかったのか。