「世紀の空売り」を読んだあとに、この本にはあまり出てこなかった商業銀行JPモルガンは何故リーマンショックでほとんどダメージがなかったのか知りたく、読んでみましたが結構面白かったです。
いわゆるCDSを最初に商品化したのもJPモルガンだったんですね。
なお、2013年に130億ドルでSECと和解した件や2015年に388億ドルで和解した件に関連した取引内容とかは良く分かりませんでした。多分買収したワコビアやベア・スターンズではなくてJPモルガン自身のリーマンショック前の取引だと思われますが、本書から受ける「印象」とは大分異なりました。
メモ:
・グラス・スティーガル法は海外に適用されなかったので、規制が緩いロンドンでMorgan Guaranty Limitedが資本市場向けの商売をしていた。また、米国企業もロンドンで資金調達した方が税負担が軽かった(p37)
・グラス・スティーガル法はデリバティブに関しては曖昧だったので、ニューヨークでもデリバティブ事業は拡大された(p39)
・ISDAはCDSの決済機関設立には反対し、1993年のG30の報告書ではそれが受け入れられた(p62)
・1993年頃にエクソン社の与信枠を自己資本比率規制から外すためにJPモルガンのエクソン社に対するデフォルトリスクを定期的な手数料と入れ替えに欧州開発銀行に売却した(p77)。1996年8月にはFRBがcredit derivativesを使っての自己資本の準備額削減を認めた(p81,URLはなぜか2018年頃から404だが、アーカイブには残っている)。
・1999年頃に、何故か米国で住宅ローンを融資していたドイツの銀行であるbayerische landesbankの140億ドルの住宅ローン債券に対するCDSを引き受けたが、その後住宅ローンに対するCDSの販売は中止した(p105)
・2005年頃から住宅ローンの証券化ビジネスに参入しようとしたが、2006年初頭頃にリスク度の高い住宅ローンのデフォルト率が上昇していることを認識(p181)。融資基準を上げる、バランスシート上の未売却の住宅ローン債券を減らす、CDSを購入するなどの措置を経て慎重に証券化ビジネスを進めた。
・2002年~2004年にかけてゴールドマン・サックスは異様な高収益を上げて、競合他社へのプレッシャーとともに、「ゴールドマンへの嫉妬」のようなものを生み出した(p197)
・メリルリンチはCDOチームが最も収益を上げていた。経営資源を巡る部門間の対立でCDOチームは強い影響力をもつようになった(p199)
・2008年2月11日にpricewarterからCDSの管理で問題を指摘されたAIGは大量の保険金請求により資金不足になったため新株調達の主幹事としてJPモルガンに依頼したが、JPモルガンは断った(p335)
疑問:
・ゴールドマン・サックスは何故収益が良かったのか。
・リーマンとベアスタンダーズのバランスシートの何が違ったのか。
・何故イギリスの銀行で取り付け騒ぎ?
・SIVのabcpに誰がどの程度資金を提供したのか。SIVは何故長期資金で資金調達出来なかったのか(p251)。それらの資金は今はどこに向かっているのか。
・2011年にオリンパスの簿外債務問題が報道されたとき、SIV問題を経た欧米ではどういう反応だったのか。
・農家向け商品デリバティブ(p43)と(ABSの)CDOのCDSは何が違ったのか。
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2012 JPMorgan Chase trading loss - Wikipedia