詳細を知らない事件が多く一回読んだだけでは理解が難しいですが、どちらかといえばそれぞれの事件のイメージが覆されるような面白い本でした。
長銀・日債銀
金融債で資金調達していた銀行が、1980年代以降不動産事業に融資をするようになり、多額の不良債権を抱え経営破綻し、多額の税金が投入された事案です。
どちらも貸倒引当金が計上されておらず、長銀の場合は経営破綻前に配当も出していました。
ただ、当時3つの会計基準が混在しており、日本の銀行が採用していた「大蔵省銀行統一経理基準」では「関連緊密先」の場合は、その他いくつかの条件がありますが、基本的に貸倒引当金は必要なかったようです。
銀行が支援すれば経営破綻は無いので貸倒引当金は必要ないというような世界観?がよく分からなかったですが、それが当時の日本の銀行行政だったようです。
興銀はどうだったのか、ドイツなどでも金融債で資金調達していた銀行はあったのか、不動産事業への融資が不良債権と認識したのはいつだったのか、不良債権を作った経営者は何を思っているのか等々も興味を持ちました。多額の税金が投入されたときの当時の国民感情を基盤とした検察の捜査で論点を設定されるよりは、第三者委員会などを通じて幅広く事実を収集しておいてくれた方が後世には良かった気がします。
ライブドア
漠然としたイメージのあったライブドア事件です。実質支配しているファンドの資本取引を損益取引としたこと、連結子会社への架空売上、の2点が問題だったようです。ただ、どちらも(当時の)会計基準の解釈によっては適切であるとのこと。
ちなみに、ソフトバンクは傘下のビジョンファンドを連結対象にしていますが、当時のライブドアは傘下のファンドを連結対象にしていなかったようです。
https://group.softbank/system/files/pdf/ir/presentations/2019/investor_20181107_02.pdf
この事案は一部の被疑者によるファンドからの横領疑惑もありましたが、それをウヤムヤにする代わりに、堀江氏に不利になるような供述調書にサインさせた可能性もあるようです。そうした部下の裏切り?を招くような給与インセンティブ構造なりリーダーシップのあり方が興味深いです。
株式交換時の自社株発行で既存株主の持ち株希薄化となりますが、良く分からない会社の株と株式交換して何がうれしかったのか、良く分からなかったです。細かな意思決定過程は不明ですが、やはりある程度「悪意」はあったのでは?、という気もします。
ひとまず、株式分割したら株価が上がる、という前提が意味不明です。
オリンパス
簿外債務の作り方、を始めて知りました。簿外債務を隠すためのファンドの銀行借入時に担保提供するのは、開示事項ではなかったんですね。会計基準の時価会計化が進む際に、ファンドの傘下のベンチャー企業を買収するときにのれんで簿外債務を減らす、スキームは面白かったです。
山一證券は顧客企業の営業特金の損失を抱えて自主廃業したと思いますが、これは企業自ら営業特金の損失を抱えていた事案でした。他の企業は大丈夫だったのでしょうか。
簿外債務を作った人たちではなくて、簿外債務を無くそうとした人たちが罪に問われるのも少し不条理に感じます。
東芝
漠然とバイセル取引や工事進行基準の問題だと思っていましたが、どちらかといえばウエスティングハウスの減損処理の問題だったんですね。米国会計基準でどのように減損処理をするかも面白かったですが、減損処理が資本欠損につながり資本欠損が繰延税金資産の取り崩しにつながる玉突き状態だったのも興味深かったです。
ウエスティングハウスは結局アメリカでチャプター11を選択しますが、その際の日米政府の融資保証や雇用維持などの取引もあり、東芝本体を潰すことは出来ないとみて村上ファンドが東芝に投資するのも凄いです。ウエスティングハウスは新しいスポンサーによって復活したみたいですね。東芝傘下では何が難しかったのでしょうか。
日本の原子力行政のなかで東芝がウエスティングハウスを買収することになった経緯も知りたくなりました。
結論部分
取得原価会計と時価会計の混在は難しい、としていますが、こうした問題が多く発生しているは日本ぐらいだったりしませんかね。アメリカのエンロン、ドイツのwirecardとかはともかくとして。