全球観察

全世界の様々なトレンドを記録していきます。

書評『生涯投資家』

村上ファンドのことを知りたくなり読んでみましたが、結構面白かったです。

PBRが1未満の会社に「株主還元」を要求するイメージのあった村上ファンドですが、この本を読むと「社会の資金循環」というのをある種の大義としていたようです。

実際に、この本に少し出てくるようにアップルやマイクロソフトは大胆な「還元還元」をして、アメリカの法人税収なり歳入なりが大きく伸びているだけでなく、それがスタートアップへの投資資金になっています(アップルやマイクロソフトは何故「企業価値」がこれほど持続的に上昇しているのか、「物言う株主」はどのような貢献をしているのかは本書には記載なし)。

Tax - Tax revenue - OECD Data

 

Taxes on corporate income, NIPAs (A054RC1A027NBEA) | FRED | St. Louis Fed

 

全体的に、村上ファンドの投資手法はバフェットっぽいような印象も受けました。

ただ、2001年に商法改正で自社株買いが本格的に使えるようになった当時の日本には、村上ファンドはまだ早すぎたのかもしれません。

サイバーエージェントは村上ファンドと出会ったから逆にこれほど企業価値をあげられたのだと思いますが、2007年に日本に初出資したKKRのような株主の目線を入れて企業価値を成長させるような成功例が何個か出てきたからの方が村上ファンドは活躍出来たのかもしれません。村上ファンドが「社会の資金循環」の大義を当時あまり言わなかったのは、PRが下手だったからなのか、儲かりすぎていて同業他社に参入してほしくなかったからなのか、何か後ろめたさがあったからなのか、良くわかりません。 

 

鉄道分野では、株主の目線で社会全体のインフラを変えるような心意気もあったようです。最初の本格的な投資先は西武鉄道だったようですが、以前読んだ本でも確かに筋が良い主張をされていると感じていました。TOBを仕掛けていたことは少しビックリしましたが、サーベラスに負けました。

阪神も京阪との合併により面白い鉄道路線が出来る可能性がありました。阪神タイガース上場の話題は懐かしく感じました。何かずれているな、という印象になっていたのを思い出しました。やはりPRが下手なのかもしれません。突然の検察捜査により阪急の阪神TOBに応じました。この本にもある通り、阪急と阪神が合併して社会的な公共的な新しい価値が生まれたのかは良くわかりません。どちらかといえば、「物言われる取締役の保身」だったのかもしれません。

公共的な会社アピールをしているわりに(悪い意味での)私物化されている?ニッポン放送やフジテレビの買収も、今見ると「物言われる取締役の保身」を感じました。未だにフジテレビの全過去コンテンツが他国で見放題とか難しいです。「笑っていいとも」の過去分を国内でも見るのも難しいようです。過去の放送資産ではなく不動産資産で経営をしている放送事業者のあり方が適切なのか、良くわかりません。

https://help.fod.fujitv.co.jp/hc/ja/articles/360007013553-%E6%B5%B7%E5%A4%96%E3%81%A7%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%AF%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%81%8B-

ただ、15%ぐらいのニッポン放送株を持っていた村上ファンドライブドアが35%ぐらいのニッポン放送株を持ったときに、突然株を売ってしまいます。ニッポン放送とフジテレビの資本関係がおかしいのを「社会の資金循環」から是正するべきというのは分かりますが、やはり公共性のあるビジネスで、公共性の観点からもっと〇〇をして企業価値を上げるべきだ、とかではなくてグリーンメーラーみたいな存在になってしまったのは良くなかったのだと思います。

ニッポン放送株買収と売却がインサイダー取引であるとする当時の裁判例は若干意味不明に感じますが、包括規定禁止規定の適用もあり得たならば村上氏からするとマシだったのでしょうか。再審請求しても良い気もします。

 

 

 

taxfoundation.org

yamaguchi-law-office.way-nifty.com

yamaguchi-law-office.way-nifty.com