全球観察

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書評『西武事件』

以前読んだ「西武争奪」をもっと歴史的に捉えるような本で、とても面白かったです。「所有」と「占有」という観点、西武事件は時代が切り替わるタイミングの象徴という観点も興味深いものでした。

この頃から、銀行主導よりはファンド主導の会社改革が一般的になりましたし、「感謝と奉仕」的な働き方から人生を楽しむ的な働き方が増えてきた気もします。
2005年に500億円掛けて作った品川のホテルはシンガポールに売られ、2006年にニセコからプリンスホテルの存在感が無くなると外国人の開発が進み、今では日本屈指の高級リゾートになってしまったのも何か象徴的です。

 

家父長制

・1942年に「名義株」は「家」を残すための手段と遺訓(p113)。
・康次郎氏は身内に裏切られた経験がある(p208)。
・「清」も「清二」も後継者にならない。康次郎氏は「義明」に頭を下げる。(p127)
・「義明」以外の兄弟には相続財産はほとんどなし(p182)
・そして遺産分割に関連して、弟が兄を訴え、別の弟と異母兄と異母姉?も参戦。

・「家」を守るためにしたことが逆に「家族」をバラバラにしてしまったように見える。

感謝と奉仕

・義明氏がヘリコプター視察時の「お辞儀の角度」について(p89)

・鎌倉霊園での元旦儀式(p135)

地方自治体関係者との会食で、社長の食べ物を秘書が毒味(p163)。

労働組合が無い。給与も安い。従業員は「家族」(p217)。

拡大路線とチープなリゾート

赤坂プリンスホテルは1982年、六本木プリンスホテル1984年に開業して以来2005年まで一度も本格的な改装をしていない(p53)。改装費を銀行借入れすれば、支払い利息+減価償却費で法人税圧縮にはなると思われるが、銀行借入れは基本的に新規開店に投入? 義明氏は設計やイベントが好きだったらしい(p87)
・2005年4月に開業した東京プリンスホテルタワーは総事業費500億円。総室数673。宿泊料の平均価格は平均5万円想定。ロイヤルスイートは一泊98万円(p166)。2022年にGICに売却。
・2006年にプリンスホテルニセコの4施設を売却。一方で、2001年のアメリカ同時多発テロ事件もあり豪州観光客の行動パターンが代わり、徐々にニセコが外国人主導で開発されていく。

土地の値上がりと土地本位制

・康次郎氏の時代では土地は必ずしも値上がりせず、分譲した住宅も売り切るのが難しかった(p117,p109)
・1970年頃から土地を有している事業者への銀行の貸出態度が大幅に変化。土地が信用創造(p176)。
・グループ有利子負債の1.2兆円は無担保融資。膨大な土地資産がもたらす信用(p61)

不明確な決算とクローズドな体質

サントリー、出光興産、竹中工務店などは非上場だが財務局に財務諸表を提出していたが、コクドはしなかった。取材にも非協力的。(p151)

・コクドは法人税をほとんど払ってこなかった。

株主が不明でも事実を積み重ねて「占有」

インサイダー取引に問われた名義株の引き取り手はプリンスホテルの納入業者が多かった(p193)。利益の追求よりも取引関係の安全性の追求。
・従業員、取引先、銀行が株主よりも大事(p215)。
・銀行主導の再編計画は既存株主の追い出し。占有者が所有者を追い出すようなこと(p220)。

日本のルールの不正の常態化

・2003年までの配当所得課税は名義株を温存させていた(p190)

その他

・康次郎氏の軽井沢開発のコンセプトは「中流階級向け別荘」(p104)
国立駅前開発で無秩序なスプロール化警戒。景観に対する自主規制。その70年後の2004年に「景観法」制定。(p106,p235)
1984年の「日経ビジネス」の試算では義明氏のコクド株の評価は4億円程度(p280)。2005年のサーベラスによる評価では170億円程度。