全球観察

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書評『敵対的買収とアクティビスト』

固有名詞が多いどころか知らない事例も多かったですが、何となく面白そうで買ってみたら、凄く面白かったです。ビジネス系の弁護士の方が書く一般本は案外面白いのかもですね。

結論としては、「良い」敵対的買収/株主アクティビズムと「悪い」敵対的買収/株主アクティビズムというのを区別するのは簡単では無い(p248)、ただ明らかに「害」となるような敵対的買収/株主アクティビズムはある、という感じでしょうか。

 

社外取締役も必ずしも機能しないことがある(p244)という「ボード3.0」の問題意識は面白かったです。印象論ですが、グーグルなりフェイスブックなり著名なVCのベンチャーキャピタリストが取締役会に居る会社が最近強いことも議論に影響しているのかもしれません。セコイアが10年程度で償還するVCファンドのビジネスモデルを変換しようとしている点も示唆的です。

 

何が正しいかを議論するよりも、どうすれば正しさを疎明出来る手続きになるか、という議論の方が重要なのかもしれません。

何が正しいかを議論するにせよ、企業価値は「中長期的」な観点から評価されるべきというコンセンサスは出来ているように思います。特に、機関投資家は投資の元本は中長期の負債であるので(p236)。株式保有年数に応じて議決権を増やす「フロランジュ法」(p228)なども興味深いです。「中長期的」な企業価値は何か、ではなくて、「中長期的」な企業価値をどう「今」に表現するか、というような議論のイメージでしょうか。と、書いていて何故かスイスの年金基金保有する団地の建て替えをすることでその団地に住む高齢者が団地から追い出されそうになっている件を思い出しました

会社法」「金商法」「証券取引所のルール」のうち、アメリカでは「会社法」と「証券取引所のルール」が複数あり制度的競合をしていて、最終的には連邦最高裁判所が合憲・違憲を判断するのが面白いと思いました。連邦最高裁判所はどのような判断枠組みを使っているのでしょう。

ちなみに、「敵対的買収/株主アクティビズム」ではないですが、フェイスブックザッカーバーグ氏が共同創業者の持ち分を30%程度から10%程度に出来たのも、デラウェア州会社法だと取締役会決議で第三者割当増資やストックオプション発行できるところ(p162)、フロリダ州会社法で設立された旧フェイスブック社を買収するデラウェア州会社法フェイスブック社の取締役をザッカーバーグ氏1人にする契約を共同創業者にサインさせたからのようです。その後、受託者義務違反の訴訟で和解して、サベリン氏はIPO時には5%ぐらいの持ち分でした。

ソフトバンクGも、何故か非公開企業にTOBを仕掛けてそれを中止し、weworkの創業者から受託者義務違反で訴えられて、創業者たちにかなり有利な条件で和解し、さらに「手切れ金」に上乗せされています。創業者が10倍の議決権が付いた種類株を持っていたことが背景のようですが、逆に創業者を受託者義務違反で訴えても良かったのかもしれません。

面白いことに、twitterを買収しようとしたマスク氏は、買収撤回をすることでtwitterに訴えられましたが、ディスカバリー制度により訴えた側のtwitterの内部情報が徹底的に調べられることになったようです。そして結局証拠開示手続きが終了したら、合意済みの価格で買収をすることを通知しました。

 

戦前日本も実は敵対的買収が多かったというのも興味深いです。戦後は「仕手筋」っぽくなったのは不思議です。株主の権利が強いから「総会屋」が跋扈していた説とかあるのでしょうか。(「仕手筋」も「総会屋」も資金源は銀行だったりするのでしょうかw)

日本では、株主持ち合いが崩れて機関投資家が株式リターンを追求し始めている状況のなか、株主の権利の強さや緩やかなTOB規制により、敵対的買収/株主アクティビズムが増える可能性があるとのことですが、楽しみです。

 

最近だとセブンイレブン物言う株主の対立がありましたが、正直物言う株主の言っていることも分かる気はします。セブンイレブンよりもファミリーマートの方が最近は食べ物のクオリティーが高い(イトヨーカドーとの共通仕入れ・共通開発の神話への疑問)、駅前や近場にはイトヨーカドーよりも最近風のSCがあった方が街の発展にはうれしい(住民としてはイトヨーカドーが賃貸借契約で更新しないで欲しい)、台湾のセブンイレブンの方が日本のセブンイレブンより良いのでは(イトヨーカドーとの協業を前提として自由な発想が出来ていない?)等々。こういう消費者・住民の意見を聞いたところで直ちに株価が上がるとは思いませんが、企業の存続基盤に多少なりとも反映されるようになると面白い気はします。

 

newsdig.tbs.co.jp

 

マイクロソフトやアップルやドミノ・ピザウォルマートのように創業者が引退して大株主でも無い企業が持続的に企業価値を高めている一方で、IBMやGEやインテル?のように中途半端な企業になってしまう理由が明確になってくると、こういう敵対的買収/株主アクティビズムに関する議論がより判断しやすくなると思いました。