全球観察

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書評『Airbnb Story』

Airbnbに関する歴史、論点は大体あるような本でした。

Airbnbは間違いなく旅のあり方を変えてくれたと思いますが、どこまで持続可能なビジネスモデルなのかは疑問に思うところもありました(多くの良好な住宅エリアは民泊禁止になってしまったのでは、1~2回の不快な体験でホストを止める人はどの程度いるのか、結局プロの貸主による短期賃貸が主な収益なのか)。そうした疑問が解消されることはありませんでしたが、いろいろと考える材料にはなりました。

ひとまず、この急成長のなか継続的に学び続け3人で経営を続けているのは凄い、としか言いようがないです。

 

以下メモです(自分の追加調査含む):

・2009年1月にY combinatorに来たときは、部屋や家をまるまる貸し出す方式は想定されていなかった。あくまでもホストが家にいる前提。また、ベットはエアマットを前提としていた。Y combinatorに面接に来る人に部屋借りる?と掲示板に投稿したがコメントは0だった。2008年10月頃のシードラウンドでairbnb側が断った投資家のブログ資料を見ると世界の色々なイベントをビジネス機会と捉えていたようだ。

・ホストであったドラマーのDavid Rozenblattはライブツアーに行くときの短期間に家を貸せないか相談もあり、部屋や家をまるまる貸し出す方式を可能にすることにした。また、サイト名からエアベッドを除きAirBnbにした。

デモデーの頃には、1日の予約数20件、週1000ドルぐらいの売上になっていた。デモデーで発表した企業のうち、airbnb以外はあまり成功しなかった?

 

・何人もの投資家から断られたが、2009年4月評価額240万ドルでセコイアから58.5万ドル、ユニバーシティーベンチャーズから3万ドルの投資を受けた。2009年1月オバマ就任式でのワシントンでは別のサイトを作った。そうしたサイトをメディアブログを使って上手に告知した。

・2009年8月には週10万ドルの取引量、1万ドルぐらいの売上になっていた。ニック・グランティーというエンジニア最初に採用した。フランク・ロイド・ライト住宅の民泊なども登録された。

・ある記事によると、airbnbの創業者の一人は有名なスパムハッカーだった。また、創業当初は米国の送金法に違反していた可能性があった。

・2010年11月に720万ドルを調達した。2011年5月には1.1億ドル調達した。そのとき何故か創業者達は2250万ドルを現金化しようとした

・ドイツでパクリサイトから脅迫を受けたが、そのサイトを買収することはなかった。代わりに2011年5月にAccoleoというサイトを買収し、3ヶ月で海外に10ヶ所の事務所を開設し数百人を採用するなど、海外展開を始めた。2011年4月頃からxnetと組みヨーロッパの素敵な物件を紹介するキャンペーンも行った。2011年5月にはfacebookとの提携機能を発表した

ロンドンオリンピック前の2012年3月にcrashpadderを買収、リオオリンピック時にはブラジルの独自決済に対応東京オリンピックでは「最高位スポンサー」だった。

・決済システムはPaypal(Braintree?)を使った。ホストの手数料3%の大部分は決済手数料。初期の検索システムは単純だったが、ホストの過去の行動パターン・部屋のクオリティー等々を考慮した機械学習のマッチング精度を向上させていった。検索の改善に関するエンジニアのブログ

アメリカではユーザーの本人確認のほかに、身元調査も行なう。本人確認はjumioなどに外部委託?

・2012年頃にホスト保険の提供開始。日本では2018年頃から提供しており損保ジャパンが引受保険会社。

・2013年にコミュニティのグローバル責任者ダグラス・アトキンが入社し、「belong anywhere」のコンセプトが打ち出された。コーポレートカラーやロゴも変更された。2014年7月16日に発表された。派生的に#OneLessStrangerというキャンペーンを展開しホストの登録を促した? (その他のキャンペーン事例)

www.youtube.com

Airbnbは、ゲストやホストのレビュー数、アカウントの認証済みの有無、チャット等のコミュニケーションを提供し、ゲスト/ホストはそのなかで総合的に最終的に判断するという立場。だが、偽ユーザーでもアカウントの認証済みになっている可能性が指摘された。物件は認証していないと思われるが2019年に一度認証しようとした。全世界の多くの自治体で民泊規制のためにホストは届け出番号などをAirbnbに提供するが、そうした届け出番号を確認していない(日本では確認しない方向性のロビイングをしていた)。物件でのトラブルに関してはAirbnb利用規約上免責。

Airbnbでトラブルが起こるとニュースになるが、2015年にAirbnbに宿泊したユーザーは4000万人いるなか、1000ドル以上の損害が発生したのは0.002%だった。ホテルで窃盗や暴力事件が起きても必ずしも話題にならない。一方で、2021年の記事によると、Airbnbは年間5000万ドル以上を悪い体験をしたゲスト・ホストに費やしており、もし同社のいうようにトラブル率が0.1%だとしても1~2億泊あるならば20万件ほどの宿泊が安全性の問題があった可能性がある。twitterのつぶやきを分析した研究によるとトラブルはもっと多い可能性もある。強制仲裁条項もあり多くのトラブルは裁判にはならない。

オレゴン州ポートランドアイルランドシンガポールに信頼安全部門の設置。250人体制。機械学習を使い怪しい予約や決済を検知。

・2014年頃にアメリカでAirbnbの人種差別加担が提起された。ホテルには公民権法遵守が求められるが、Airbnbは宿泊を提供しているわけではない。各自治体の規制はともかく、5部屋に満たない部屋の貸し出しには公民権法は適用されない。Airbnb調査レポートを発表し、「今すぐ予約」の拡充などの施策を行なった。

・2012年9月にニューヨーク市のホストであるナイジェル・ウォレンは旅行中にルームメイトの許可を得て部屋を貸し出したが、ニューヨーク市の捜査が入り罰金を科せられた。

ニューヨーク市カリフォルニア州、ベルリン、バルセロナなどの都市は規制強化の方向だが、世界の多くの都市ではAirbnbを歓迎し規制緩和する向きもある。各都市で住宅危機が発生する場合もあるが、消費者はAirbnbのようなプラットフォームを望んでおり、中長期的には規制強化は難しい可能性。

・執筆当時、ニューヨーク市には300万戸ほどの物件があり、その1~2%の4.5万戸ほどのAirbnbの物件があるが、2万戸の空き家もある。2023年4月にairbnbinsideで確認するとAirbnbの物件は4.2万戸ほどだった。

・2014年には出張管理サービスのコンカーと提携。ミレニアム世代の法人需要対応。

・2016年には「体験」の発表。グウィネス・パルトローを使ったブランドマーケテイングも開始。日本ではCCCとの提携開始airbnbを使うとTポイントがたまるようになった。

・2017年頃から「ホテル」も掲載可能になった。日本でも「宿泊施設」の予約が出来るようになった。2017年6月に日本では「民泊新法」が作られた。結果として民泊ホスト数は5万から2万程度になり、伸び悩んでいる。もともと市場規模として400億円程度と推計(airbnbのテイクレートは10%程度=40億円程度)されており、必ずしも大きくない市場で無駄に規制を作ってしまったのではという指摘もある。民泊新法施行まで時間があったが、施行直前に法律に対応していないホストへの予約を急遽キャンセルするためにairbnbは10億円使った。日本では草の根の「民泊」の延長というよりは不動産の賃貸ビジネスっぽくなった(そもそもこの法律は賃貸住宅対策議員連盟などにより作られた)。当時は市場規模が2000億円程度になるのでは、という期待もあった
・2019年のairbnbのブログによると日本には5万件のリスティングと2.3万件のホテル・旅館の部屋があるとしている。insideairbnbの東京のデータを見ると1万件ほどのリスティングがあるが、「家/部屋 全体を貸し出すが70%」「1物件だけのホストが1076人」なのでビジネス感は強いと感じる。2023/3/13時点で東京23区と東京都で6000戸ぐらいの民泊届け出数

https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/content/001595762.pdf

・コロナ禍で旅行産業は大打撃を受けた。AirbnbIPOを中止し、大規模なレイオフも発表。だが、近距離旅行や長期滞在需要のニーズを新規発掘し、オンライン体験も提供するなどして、他のホテルや旅行プラットフォームよりダメージは少なかった。2020年12月11日にIPOを達成した。

・中国ではコロナ禍の旅行需要の変化に対応できず、美团携程旅行木鸟民宿などの現地企業との厳しい競争もあり2022年5月に撤退

・あるレポートによると、世界のバケーションレンタルの半分以上はairbnbのみに在庫としてある。booking.comが独占している在庫は18%。ホストの年間解約率は30%。2020年にホストを開始した人たちで、2022年も継続しているのは62%。63%のホストはプロのホスト。

google travelには登録していないMAUは1億人ぐらいだが、7割程度がダイレクトアクセス。旅行するときにairbnbを見る、のようなブランディングを確立している。2018年頃から航空券購入にも参入しようとしている。

airbnbが観光地や地元住民に与える負の外部性の観点から「倫理的な旅行」を推奨する動向もある。airbnb自体も、長期滞在、リモートワーク、zeuslivingのような社宅その他housing as a service的展開 などこれまでの旅行者のための民泊サイトから大きく変化すると思われる。だが、単なる「プロホスト」のプラットフォームでしかないとみなされたならば、地域の負の外部性の観点からもホテルなどと同様の規制が導入されるかもしれない。

 

よく分からなかったこと:

・どのようにホストを獲得したのか。

・ホストの継続率はどの程度なのか。

・「プロホスト」は結局全ホストの何割で、売上の何割なのか。

・ちょっとした(国際)交流程度のホストだけでビジネスは成立するのか。

・なぜ両方から手数料をもらう価格体系なのか。

Airbnbの収入がないとホストの生活が成立しないのは健全なのか。

Airbnbで地方経済の状況が良くなった事例はあるのか。

 

 

www.businessofapps.com

www.oldhouseonline.com

www.nytimes.com

www.nydailynews.com

www.travelvoice.jp

musubite.co.jp

airstair.jp

1manken.hatenablog.com

www.webprofits.com.au

thebridge.jp

www.youtube.com