全球観察

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書評『ユートピアの消滅』

理想的な社会とは? ということを、著者の経験に基づいて散文的に記載されている本でした。

 

ベルリンの壁の崩壊により「解放感」。自分がユートピアだと思っていたものが崩壊したのに何故か。「遠いところへの憧れの対象を設定せずにいられない心の構造から自分が脱け出ていたのだと確認できたことからくる、少し寂しい解放感」「私は本当に自由になったのだろうか」(p211)

・「自ら共同体を壊しながら、共同体を求める大衆があり、英雄待望論の場合と同じ用にアンビバレンツな大衆の姿が見られる」 (p182)

・「しかし、かつて人間に豊かさと幸福をもたらすと思われていた産業社会の今の姿は、果たして人々にとってユートピアなのだろうか」 (p179)

・「なぜそのような、人間を非個性的にする社会が出来てしまったのか」 (p45)

 

ユートピア社会を求めるという言説の背景には、ワタクシ的な心の平安を求めたいという利己主義があるような本でした。
少なくともこの著者は、ソビエトにも詳しくアメリカの消費経済にも詳しく中国の動向も詳しいという独特のポジションを持っているよ、という「社会的記号」を形成することが出来たのではないでしょうか。それによってもたらされる共同体内のポジション、社会的場所の確保、心の平安、それが著者にとっての関心事であるかのように見受けられました。