全球観察

全世界の様々なトレンドを記録していきます。

書評『わが投資術』

ネットキャッシュ比率((流動資産+投資有価証券*70%-流動負債)/時価総額)を主な投資指標として極めている感じが凄いです。

 

・1998年7月頃のニトリへの投資判断(北海道での店舗の売上は悪かったが、関東圏は良く、他に家具SPAが無かった)。

・2003年問題で安かったREITへの投資。

・2004年の東京銀行UFJ銀行の合併比率がUFJに不利になる市場予想があったが、UFJが買い叩かれることは無いと判断し、ポジションを構築。三井住友銀行の参戦もよいサプライズ。

リーマン・ショック後に敢えて信用力が無いREITへの投資(母体は潰れたときに国交省が動くと判断、国交省の「不動産市場安定化ファンド」は良いサプライズ)

・2012年のUTグループへの投資判断(自動車産業は派遣業者への依存を強くする読み)。

・2011年10月のオリンパス事件後に株価が暴落したオリンパスを1株400円ほどで5%ほど購入し(コアなビジネスは健全、キャノンがTOBをする予測、経産省上場廃止を望んでいないという読み)、1200円で売り抜けた。(オリンパスの本を読みましたが、多分これをチャンスだと思うことは出来なかったと思います)

 

などなど興味深かったです。1回では理解できた感覚にはなれないですが。

 

 

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書評『約束の地』

オバマ大統領の大統領一期目の回顧録です。この本がもし単なる小説だとしても充分面白い気がしましたが、実際に世界で起こったことに対する世界で最も権力を持っていた方からの観点が記載されている本であり、非常に楽しめました。

ところどころに表現されるオバマ氏のどこにもぶつけられないような感情(p180,p319)、それが彼のエネルギーの源泉でもあるのかな、という気がしました(p123)。

アメリカ社会は分断しているかのような記述も散見されましたが、実際にどのような分断が発生しているのかは、良く分かりませんでした。それは自身を統合のシンボルとするための記号的な操作なのか(p76)、連邦議会の運営ルールの問題なのか(p378)、本当に何らかの深刻な分断が発生しているのか。。。

リーマン・ショックからの回復」「医療保険制度改革」「メキシコ湾の原油流出事故の拡大防止」など卓越した結果をもたらした反面、「医療保険制度改革」で政治資本を使いすぎた印象です。もしかしたら「医療保険制度改革」はもう少し後回しにしてまずは雇用の回復を優先させた方が良かったのかもしれません。「医療保険制度改革」に限らず何らかの新しい法案で投票を躊躇っている議員へのバーターの取引が雇用に関連するものが多いのも(p417、下p95)、不思議な気もします。

あと。オバマ氏のクリーンエネルギー政策が無ければテスラのような会社は生まれてこなかったのかもしれないと思いましたがどうなのでしょう。

p282にあるサブプライムローン周りの記載は微妙に間違っている気がしました。住宅ローンが証券化されるようになったのは数十年前、融資基準は必ずしもゆるくはなっていない(が融資基準が甘いサブプライムローンのような商品は生まれた)、AAAの格付けを得られるMBSばかりではない、MBSの種類によっては貸し倒れリスクを適切に分析出来ていたetc ブッシュ大統領のGSE改革法案民主党が反対したことに触れないのも少しフェアではない気がします。

また、p378にあるように財務長官就任時にティム・ガイトナー氏は「具体的に何をすれば効果的なのか」を分かっていなかった、というのも興味深いです。p440やp462に当時の意思決定プロセスが記載されていますが、ガイトナー氏の分厚い回顧録よりも遥かにわかりやすかったです。

アフガニスタンイラクに注いだリソースを少しでも国内に使えば、どれだけ豊かな国になれていたか、というような記載(下p528)が印象的でした。また、もし冷戦後にアメリカが温暖化との戦いに挑んだら世界のオイルマネー独裁政権はどうなっていたか、などの記載(下p255)も興味深かったです。アメリカ人は国内の状況の改善には膨大な政府リソースを使うような気分にはならないのが不思議です(p13)。敵が居ないからでしょうか。

個人的にはこういう政治家が共和党から出てきたら面白い気がしました。例えば、ミシェル・オバマ氏が共和党から大統領候補として出てくるような展開は難しいのでしょうか。

 

メモ:

・ハーバード・ロースクール卒業後に職を探してたどり着いたシカゴではハロルド・ワシントン氏は初の黒人市長とするような1983年の運動があった。ちょうどハロルド氏の一期目が終わった頃に移り住み、そうした運動は組織力が無いと持続可能ではないことを学んだ p39~p40

・1995年にミシガン州上院議員立候補の話が出てきた。地元の有力な市会議員であるtoni preckwinkle氏も支持してくれた。 p51

・2000年の連邦下院議員選挙では黒人のBobby Rushに30ポイント差で敗れた。 p71

・大敗した数年後に、2004年の連邦上院議員選挙への挑戦意欲が何故か湧いた。 p77 2003年に州上院議長に就任予定の大物黒人政治家のEmil Jones氏などは支持してくれそうだった p79

・2002年にイラク戦争に反対した演説が先見性のある内容だったとして評価された p86

・2004年初頭の時点で"yes we can"を含むテレビ広告を作った。テレビ広告で支持率が2倍になった。 p89

上院議員の予備選では様々な地域、様々な人種から票を得ていたことが注目を浴びた p90 2004年7月の民主党全国大会で基調演説をしてほしいと、大統領候補のジョン・ケリー氏から連絡があった。 p91 2004/11/3にイリノイ州上院議員当選した

・2007/11/10のアイオワ州のJJ Dinerのイベントでの演説の反応を見て、アイオワ州で勝てるだけでなく、民主党の大統領候補になれると確信した p171

・ヒラリー氏との戦いではオバマ氏が麻薬取引に関わっていたなどの情報を流したヒラリー陣営の方が辞任に追い込まれたりした p173

・選挙期間中に訪れた黒人生徒が多数を占めるようなボロボロの学校を見て、執念深くのしかかってくる過去の重たさが敵なのだと感じた p211

高所得者への増税を財源に、教育・研究・インフラ設備・労働組合の強化・国民皆保険制度の提供・大学授業料引き下げなどを主張した p286

・選挙期間中に使った「富を広げる」という言葉が共産主義を連想させるとして、少し問題("joe the plumber")になった p312

リーマン・ショックから経済を立て直したことは、一方でウォール街の文化を温存した・一握りの億万長者の利益に奉仕したなどの批判もある p480

・軍病院で負傷者と面会した際に、「人間というものは無意識に憎しみを煽り、残虐さを正当化し、よき者でさえも殺戮に加担させる」ことを理解した p509 ドイツのユダヤ強制収容所への訪問も同じような感覚を想起させた 下p60

・ゼロからスタートできるならば、医療保険制度は単一者支払制度にしたい。現実的には共和党ロムニー氏が州知事だったマサチューセッツ州の制度の国家版のようにするしかなかった 下p80 下p126

・最終的に出来上がった法案は「パブリックオプション」を含まず、労働組合が反対するキャデラック税は削除され、保険を購入できる窓口は単一市場ではなくて州ごとの取引所になった 下p138 下p132

ハーバード大の黒人の教授であるゲイツ氏の自宅での逮捕は非常に残念に感じた 下p99 このときのコメントで白人有権者からの支持率は落ちて回復することは無かった 下p102 「この国の社会秩序基盤が決して単純な合意によって築かれたわけではなく、白人からの、黒人や褐色の肌をもつ人々に対する何世紀にもわたる国家ぐるみの暴力によってなりたってきたという事実である」 下p103

・APRA-Eのようなエネルギー分野でのハイリスクハイリターン投資を行う政府機関を復興法の予算を使って立ち上げた 下p239

ブッシュ減税の2年間の延長共和党との交渉材料になった 下p392

イスラエルパレスチナの関係が悪化するとイスラム世界での反米感情が高まる。アメリカの外交官はアメリカの政策と相容れない政策を展開するイスラエルを擁護する苦しい立場におかれる。彼らの関係が改善すると、アメリカを人権の擁護者として世界でより信頼される国に出来る。 下p422

 

オバマ政権の住宅ローン政策に反対のリック・サンテリ氏 p430 下p112

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Obama Family Home in Hyde Park | Enjoy Illinois

テスラ、政府融資4億5,000万ドルを9年前倒しで完済 | WIRED.jp

 

quanqiu.hatenablog.com

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書評『決断のとき』

ブッシュ大統領回顧録です。個人的にかなり印象が変わりました。

イラク戦争前に相当な外交努力をしていた(p42)ことを感じましたが、サダム・フセインは何故国連の調査に協力しなかったのでしょう。トルコが基地を使わせず外交的に裏切った趣旨の記載(p46)があり、もしこれが日本だったらどうなっていたか少し心配になりました。

アフガンへの攻撃は911があった後なのでしょうがないかもしれませんが、一部のイスラム教徒がアメリカを敵対視していた理由は人口ボーナス期の一時的な現象(団塊世代の安保反対)のような気もして、適度に関わらない選択をする方が良かった気がします。

イラクにしろ、アフガンにしろ日本政府は上手な距離感でアメリカと関わっていたのだなと感じました。

当時は、いろいろな陰謀論があった記憶ですが、もしアメリカ政府がテロリストをコントロール出来るならば、ヨーロッパ等の国でもテロを起こさせても良かった気がします。結果として、そうした大規模なテロはほとんどなかったですし、イラク・アフガンへの軍事作戦で国際協調に苦戦している点(p319)からも、そうした陰謀論が疑わしい印象を増しました。

TARP法案周りで新しい発見は無かったですが、「小さな政府」などブッシュ氏の直観と反する政策を、ロシアがグルジアに侵攻しハリケーンがテキサスを襲いイラク・アフガンで戦争を遂行しているとき(p344)に、ここまで大胆に推し進められたのは凄いなと改めて感じました。世界金融危機の原因ともなったファニーメイフレディマックの改革法案を数年前から提出していたのに18回目の提出にしてようやく成立したのも、アメリカの議会政治の難しさを感じさせます(p339)

ブッシュ氏がやりたかったことの一つが「社会保障制度」改革だったのも意外でした。破綻する制度に若い世代がカネを払うのはフェアではない(p114)、という政治家が日本でも増えてほしいです。

移民法案も否決されました(p126)が、この頃にこうした法案を成立させていればアメリカの分断はもっと少なかったかもしれません。

極端なイデオロギーの影響を弱める方法として、党内競争のあり方を変えることや選挙区の線引き手続きを変えることなどが提案されているのも興味深いです(p128)。

ハリケーンカトリーナで露呈した州知事連邦政府のコミニュケーション不足、軍隊の派遣の権限問題などは日本にとっても他山の石かもしれません。州知事に拒否された軍隊の派遣を、法の執行権を与えないなどの条件付きで、決断するもの凄いです(p151)。

イラクへの増派の決断も興味深いです。最初から大量の軍を派遣できていたらどうだったのか、アメリカの世界の警察としての限界も感じます。

幹細胞研究倫理周りの話も興味深かったです。

全体的に、ここまで「神」という言葉を使っているとは思わなかったので、少し意外でした。

 

 

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書評『大統領オバマは、こうしてつくられた』

2006~2008年のアメリカ大統領選に関する本です。非常に興味深く読めました。

これを読むとオバマ氏が勝利したのは、自身の才能もありつつ、敵失や時代の流れなども大きかったのだなと感じました。

ひとまずマケイン氏がサラ・ペイリン氏を副大統領にせざるを得なかった状況が不思議でした。トランプ氏の台頭を示唆していたとも言えるかもしれません。

 

オバマ氏の才能

まず2008年1月3日のアイオワ州予備選挙に集中投下して勝てたことが、大きかったことがわかります。

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そこにリソースを集中投下するという意思決定、演説の上手さ、適切な資金調達、選挙チームの組織力、そして何よりこれまで選挙に行っていなかった人たちを選挙に行かせた点などはオバマ氏の稀有な才能を感じました。

有名ではなかったオバマ氏は、資金調達→選挙で勝つ→有名になる→さらなる資金調達のサイクルを効果的に回すことで、少しずつスターダムを駆け上がります。

敵失

オバマ氏以外のどの陣営も途中で選挙チームで解任・辞任が多発しているのが不思議でした。

・ヒラリー陣営は夫のビル・クリントン氏の介入やスキャンダル、チームの組織力の下手さ(p106)などが目立ちました。

ジョン・エドワーズ陣営は「労働者階級出身」の強みはありつつも、こちらもチームの組織力の下手さやエドワード夫妻の性格の問題、そして隠し子スキャンダルで撤退を余儀なくされました。

・マケイン陣営は、こちらもチームの組織力の下手さもありつつ、資金調達も苦戦していました。ロビイストとの関係や不倫疑惑に関するnytimesの超大作の記事も出ました(p330)。サラ・ペイリン氏を副大統領候補にすることで一発逆転を狙いましたが、その賭けは外れました。ペイリン氏が内部で"diva"と揶揄されているなど内部分裂を示唆する報道はマケイン氏の有力な支持者からのリークでした(p436)。また、リーマン・ショック時にTARP法案を支持するべきでしたが、何もせず多くの失望を買いました。

時代の流れ

イラクやアフガンに軍隊を派遣している戦争状態のアメリカでは、オバマ氏の2002年のイラク戦争反対のスピーチはあるべきアメリカの姿の象徴にも見えました。ヒラリー氏は上院議員時代にイラク戦争に賛成の投票をしましたしその後の投票行動も含めて、リベラルな支持層から反感を買いました。なお、オバマ氏も上院議員になってからはヒラリー氏とイラク問題に関する投票記録は大きく変わらなかったようです(p102)。

・ハリー・リード氏などヒラリーでは勝てないと考えている民主党の重鎮が一定数居た p48

・2008年のリーマン・ショックへの対応で、マケイン氏とは違いオバマ氏は優れたリーダーシップがあることが示唆されました(p401,p412)。それは2008年10月の共和党の黒人の重鎮パウエル氏のオバマ氏支持などにもつながったようです。

 

メモ

・マケイン氏もヒラリー氏もオバマ氏のことを当初は日和見主義者だと感じていた p340

・バイデン氏はオバマ氏の政策を薄っぺらくレトリック的だと感じた p432

・2007年8月にオバマ氏はパキスタンを攻撃するべき趣旨の発言をした p124

・対立陣営が「人種問題」を持ち出したという構図で「人種問題」をオバマ陣営は仕掛けている(nytimesの2008/1/9の社説2008/1/11の記事)とビル・クリントン氏は感じていた p205 p218

Bill Clinton Accuses Obama Camp of Stirring Race Issue - The New York Times

オバマ氏はクリントン陣営から黒人票を譲られることで、黒人の利益を代表するだけの議員のようなイメージをつけられることを警戒した p221

オバマ氏は長年お世話になっていたライト牧師の過激発言の対応に苦労した p256

・多くの有権者は「何が真実か」ではなくて「どう反応したか」を知りたがっている p217

・2008年7月の世論調査では有権者では「経済」が一番重要な関心事項だった。 p342

・マケイン氏は政府から助成される公的選挙資金8400万ドルで戦った。オバマ氏は公的選挙資金を拒否して自分で資金調達をして6億ドル集めた p343

クリントン氏は選挙期間中の1200万ドルの借金をオバマ氏に肩代わりしてくれないか期待した p274

・ジャーナリストのKatie Couric氏やコメディアンのTina Fey氏がサラ・ペイリン氏の「田舎者」イメージを形成して、それを覆せなかった。 p431

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オバマ氏はいつから医療保険改革を言い始めていたのか(2008年1月27日エドワード・ケネディ氏からの支持との取引?)、"yes we can"はいつから始まったのか、イラク・アフガンについては選挙期間中はどのような議論があったのか(p58,p109,p124,p345)辺りはもう少し詳しく知りたかったです。

 

アニュアル・ハーキン・ステーキ・フライ p68

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マケインのオバマのセレブCM  p350

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2008/4/25のBill Moyers氏によるライト牧師へのインタビュー

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Barack Obama's billionaire backers