なぜTikTokが世界一になったのか、がかなりよく分かる良い本でした。
個人的には、gunosyとかsmart newsが流行り始めた時期に、頭条をダウンロードしてそんなに大したことないなと思った記憶があるのですが、そこからいつの間にかTikTokが流行っていて、結構不思議だったので、謎が解けた感覚もあります。
あと、百度はともかくテンセントとアリババが中国で無双しているぐらいに思っていたのですが、まさか全然想定していない企業が一気に有名になったのも不思議だったので、その点でも少し謎が解けました。
面白いなと思ったのは、バイトダンスはショート動画のアプリをリリースするときに3つ異なる方向性のアプリを同時リリースしたり、アメリカでTikTokの初期ユーザーは社会のはみ出しもの的な層だったのにそこからレコメンド技術とマーケティングで一気にメインストリームのユーザー層を獲得したりと、アプリ開発の方法論が卓越していると感じさせるあたりでしょうか。
日本のバイトダンス社のプレスリリースも凄いなといつも感心しています。この本の原題はAttention Factoryですが、まさにアプリ工場という概念を知った感覚もあります。
他の方のTweetですが、こんなのもありました:
Bytedanceのアプリをカテゴリ別・広告の有無・課金プランでまとめたもの。
— 平田 智基 (@t_10_a) 2020年8月20日
こんなにアプリ出してるのか。 pic.twitter.com/8nPqG56o9s
ByteDanceのInstagram競合アプリのLemon8がアメリカのアプリ乱、さらに$1.5Bの人ぐでトップ10入りした。
— Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1) 2023年3月29日
一気にトップ10入りしたため、恐らくかなりのユーザー獲得のマーケティング投資を行ったと思われる。
今までのダウンロードの38%は日本が占めている。https://t.co/ullQPRxYSy pic.twitter.com/eks6CEoKVb
バイトダンスがNetflixみたいな長尺の動画に手を出さなかったのもレコメンド技術が応用できないという理由だったそうですが、Netlix=レコメンドが凄いみたいなイメージが巷にはあると思われ、ちょっと面白いかなと思いました。最近もSpotifyの創業期のNetflixドラマを見るために数カ月ぶりに契約しましたが(なお、登録しているメールアドレスにレコメンドされていませんでした)、以前からNetflixのレコメンドはそんなに凄いのかよく分かっておらず 、ちょっと仲間を得た気分とでもいいましょうか。
ちなみに、TikTok自体は結構早くに飽きてしまったのですが、日本でも世界でも怒涛のダウンロード数の伸びなり視聴時間を継続しているようです。 アメリカ議会でのTikTok規制の議論がどこまで影響力・実行力あるのかわかりませんし、最近話題になり始めている生成AIの分野ではあまりバイトダンス社の存在感が良くわかりませんが、TikTokの次もTikTokなのでしょうか。
以下メモです:
・2012年創業。SIGによる$5mのシリーズA。最初のアプリはミームを集めたような「搞笑囧图」。そのあとすぐに、「內涵段子」もリリースされた(こちらは中国共産党の指導で2018年に閉鎖?)。そのあとさらにニュースアグリゲーションアプリ「今日头条(toutiao)」のリリース
・「小さな画面」「断片的な時間」「情報過多」を創業者の张一鸣は課題だと感じていた。AIの教材がなかったので、ネットの英語情報を中国語訳するなどして自分たちで作った。
・「toutiao」リリース当時数あるニュースポータルサイトのモバイル版ぐらいにしか思われず、次の資金調達に難航した(当時のピッチ資料、日本語訳 )。ようやく2013年9月にDSTよりシリーズBの投資(本書によると、評価額$6000万で、DSTが7.2%を取得)。DSTはアメリカのニュースアグリゲーションアプリであるPrismaticにも投資していたが、2012年12月頃にそれを紹介したtechcrunchの記事はニュースアグリゲーションアプリに対して悲観的だった。
・2011年に実装されたYouTubeのsibylアルゴリズムのようにパーソナリゼーションの波は来ていた。Facebookも2013年にニュースフィードのアルゴリズムを大幅に変更した。2013年にRSSフィードアプリのGoogle Readerが閉鎖されるときに、张一鸣はグーグルの決断を絶賛し、パーソナライズされたレコメンデーションが正しい方向である旨の記事を書いている。
・レコメンド技術のために百度などからたくさんの人材を引き抜いた(特に、朱文佳氏)。百度は内部でいろいろと問題を抱えていた。2016年にはマイクロソフトアジア研究所の马维英氏を引き抜いた。
・バイトダンスはアプリがスマホをプレインストールしてもらうために小さな販売業者や個々の店舗と連携した。その多くはアンドロイド端末であったようだ。
・2014年にセコイア中国から評価額$5億で$1億を調達するシリーズCラウンド。
・2015年にショート動画に参入する方針を決定。西瓜视频(YouTubeの真似)、火山小视频(当時中国で流行っていた快手の真似)、抖音短视频(Musical.lyの真似)の3つのアプリをリリースした。
・抖音短视频は、クリエイターを抱え込むオペレーションが優れていた。当初は10代をターゲットにしていたが、流行に敏感な都会の若者にターゲット層を変更した。「クールでおしゃれ」なイメージの喚起。中国のコメディアン・岳云鹏のモノマネ動画が流行ると、直接事務所と交渉しそのモノマネ動画を本人のSNSでシェアしてもらった。中国のヒップホップカルチャーの火付け役であるオーディション番組「中国新説唱」(The Rap of China、旧名中国有嘻哈)のスポンサーにもなった。顔フィルターの技術なども発展させ、ノーメイクで動画が撮れるようにした。
www.bilibili.com・2017年8月には評価額$200億で、$20億を資金調達した。
・2017年9月から、広告フィードも開始した。最初のスポンサーはAirbnb、哈尔滨啤酒(ハルピンビール)、雪佛兰(シボレー)だった(当時の記事1、記事2)。
・2017年11月に真似していたMusical.lyを10億ドルで買収した。買収スキームはやや複雑だったが、これにより米国進出の手がかりを得た。
・日本では2017年10月にTIkTokをサービス提供開始。初期ユーザーは動画編集フィルターや特殊エフェクトに興味がある層だった。木下優樹菜がユーザー登録したことが判明すると事務所と交渉しタイアップマーケテイングをした(こちらのnoteによるともっと細かいことをしている印象)。その後きゃりーぱみゅぱみゅやE-girlsなども登録した。中国での競合テンセントが出資するSpotifyと日本では何故か共同してアーティスト支援プログラム。TikTokの別バージョンBuzzVideoは2022年末に終了。
・2018年2月から3月の春節のタイミングで、紅包(お年玉)キャンペーンも開始した。マーケ費用に一日$50万使うこともあった。それは$280万まで増額された。これにより、デイリーアクティブユーザーが4000万人から7000万人になった。4月には1億人に達した。独自決済圏の構築によりECコマースも視野に入った。2020年末に中国での決済サービス免許取得(「抖音支付(DouPay)」)。TikTokのECはインドネシアで好調だが、アメリカやイギリスでは苦戦。
・Tencentは2013年にショート動画の微視をリリースしていたが、流行らなかった。「快手」に出資し、微視はサービスをクローズした。Tencentはバイトダンスが寺社のプラットフォームで広告を買えないようにした。「快手」は2021年に香港でIPOした。バイトダンスには、著作権侵害やアクセス遮断などで訴訟提起。
・アメリカ進出時はFacebookで大量の広告。獲得できたユーザーは社会のはみ出しもの的な層が多かった。FacebookはTikTokのインストール数などのデータを取得していたはずだが、あまり効果的な対策は打てなかった。メキシコでTikTok風のLassoをリリースしたが、流行しなかった。
・2020年頃にはTikTokで数億円稼ぐ10代のクリエイターがアメリカで続出。