640ページぐらいある本でしたが、不思議なくらいあっという間に読めてしまいました。
現代のスタートアップのhard thingsは大体含まれているような気はしました。あと、イーロン・マスク氏がtwitterで模索している背景に総合金融的なことを志した過去があるのが印象的でした。
ドラマ化されるよう?ですが、一応下記ネタバレありで内容を軽くまとめてみました:
============= 以下、ネタバレあり =============================================================================================
資金調達
- 1999年2月 confinity 50万ドルを身内から調達(p123)
- 1999年7月 confinity 450万ドルをノキア等から調達 。マロイ氏が取締役に(crunchbase、wiredの記事、p142)
- 1999年8月 x.com sequoiaから500万ドルの調達。Moritz氏が取締役に。 (p179)
- 2000年1月 ideallabとgoldman sachsから2300万ドルを調達 。ideallabは後に競合製品を開発。
- 2000年4月 Madison Dearborn Partnersなどから1億ドルを調達 。様々な海外投資家の参加。ドットコムバブル直前(p269)。
- 2000年8月 フランスのCredit Agricoleなどから3000万ドル調達。
- 2001年3月 スペインのBankinterや日本のeBANKから9000万ドル調達。
前提となる規制
- グラス・スティーガル法(p103) 1999年4月に大幅改正
- ach送金
メンバーたち
Max Levchin(創業者、CTO)
東ドイツ製のrobotron PC1715やソ連製DVK-2がプログラミングの原体験(p28)。ウクライナからの難民。
Elon Musk(創業者、2代目CEO)
1996年2月のサンフランシスコの新聞記事でイエローページの電子版を作っていることを紹介される (p82)。zip2を売却し2100万ドルを取得。
Peter Thiel(創業者、3代目CEO)
初期のころ
confinity
当初は企業向けのモバイルセキュリティ。1999年2月頃、消費者向け「モバイルウォレット」に変更(p124)。当初はパームパイロットなる端末間の決済。メール送信
のアイデアの誕生(p164)
オフィスは469, grant aveで創業。394,University Aveに引っ越し(p120)。引っ越ししたときの雰囲気に関するLevchin氏のブログ。
初期の雰囲気に関するLevchin氏のブログ。
x.com
1997年にIPOしていたオンライン銀行netbank (p101)のような総合金融サービス。怒涛の人材スカウト(p183)。osにwindowsを採用(p195)。1997年7月頃共同創業者3人が辞職するなど人事的混乱(p108)。1999年9月にバークレイズ銀行と提携し、投資信託販売。コロラド州のfirst western national bank を買収し銀行免許取得(p190)?1999年11月頃にx.comのリリース、デビットカードでATMから現金を引き出す写真など(p197)
confinityが新オフィスのために大家に株を与えたり、x.comがドメインを株式と現金100万ドルで購入した記事 (p97)
合併後
ベータやVHSのような不毛な競争を避ける(p261)
対等合併だがのれん発生? (p532)
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1103415/000091205702025557/a2082506zs-1a.htm
直面した問題
競合
Bank OnoのeMoneyMail、IdealabのPayMe、YahooのDotMoneyなど競合が増える(p262)
現金燃焼
給与、登録ボーナス、カード会社への手数料、不正利用対応で合併後初期の3ヶ月で2500万ドルの支出(p265,366)。
不正利用への引当金不足(p348)
雇われCEOの退任
合併をもたらした初代CEOのハリス氏は取締役会で解任された(p298)
マスクの退任
ビジョンやシステムをめぐりマスク氏も解任となった(p378)
カード会社との関係
高額な決済手数料だが、なかなかユーザーに転嫁できなかった(p290)。銀行口座との紐づけの推奨(p316)
各事業者がmerchant accountを作らずにpaypalアカウントさえ作ればクレジットカード決済を使えるようになった初期の仕組みは不明。
ebayとの関係
ebayは1999年5月にbillpointなる決済スタートアップを買収したが、ebayとの統合は進まず、オークション利用者は自分で決済手段を探す必要があった(p218)。
2000年9月にebayは独自決済の「即時入金」「visa決済手数料無料」を発表し、paypalからシェアを奪おうとした(p460)。その後「出品料無料」も。paypal有料化のタイミング。
イーベイの「即決購入」ボタンは独自決済のみにしていた。だが、様々なバグもあり、paypalボタンも選択可能にした(p466)。
1998年5月に始まった司法省とマイクロソフトの独禁法を巡る法廷闘争を上手に示唆した(p483)
ペイパルのデビットカードを作ったり、ペイパルショップを作ったりするなどイーベイのヘビーユーザーにpaypalの魅力を訴求し続けた(p475)
新機能
ペイパルボタンの誕生(p330)
有料化(p333,p432)
システムを巡る議論
windowsかlinuxベースか。windowsならば様々な開発フレームワークを使えた。linuxならばsun microsystemsのデータベースなどが使えた。sun microsystemsのデータベースならば拡張が楽だった (p355)。
ビジョンの変更
メールベースのシンプルな決済手段の提供か高度な金融サービスの提供か。前者の選択(p365)
不正利用
銀行口座との紐づけ時にはランダム入金で口座チェック(p324)
captchaの世界初の商用利用(p405)
データを使った不正パターン認識(p413)
特許化に関して
主な特許に US7249094B2(p418)など。だが、必ずしも特許を公開しなかった説もあり。
何故amazonには提供しなかったか
ピザハットやamazonには決済システムを提供しなかった(p506)。amazonはstripeの決済システムを使っている?
検察当局の捜査
オンライン賭博をめぐり検察当局から捜査。20万ドルの罰金(p584)。
送金ライセンスの問題
ipo時に各州での送金ライセンスが問題に。2002年2月7日にはルイジアナ州よりサービス停止命令(p547)
IPO
IPO時の8回の修正
https://www.sec.gov/edgar/browse/?CIK=1103415
2002年2月15日にナスダックで13ドルで540万株の売り出し。終値は20.9ドル。時価総額10億ドル。 p552
ebayによる買収
2002年7月8日にebayによるpaypal買収の発表。買収総額15億ドル。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1103415/000091205702026650/a2084015zex-99_1.htm
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1065088/000089161802003170/0000891618-02-003170-index.htm
再IPO
2015年7月、ebayからスピンアウトし再上場。時価総額3000億ドル。
集客
新規登録したユーザーへの現金配布、紹介プログラム (p212) その縮小(p288)
海外展開
イーベイの海外展開の波に乗る(p489)
フランスのCredit Agricole、オランダのING、シンガポール開発銀行と提携してホワイトラベル方式でサービスの提供(p494)
2000年10月31日に、「ドル決済」「自国もしくはアメリカへの送金」に限定して世界26ヶ国でリリース。1件2.6%+30セントの手数料(p497)。
オンライン賭博
クレジットカード会社が対応しなかったオンライン賭博も当初はシェア拡大の手段だった(p500)。
その他感想
paypalの体験から「ネットワーク効果」「ビックデータの価値」みたいなののノウハウが蓄積されたのが、その後のシリコンバレーの躍動に大きな意味があったのかな、という気がしました。
翻訳されていない本が多いのも気になりました。シリコンバレーが蓄積したノウハウが微妙に日本には正しく伝わっていないのかもですね。
the perfect store p422
the paypal wars p577
なぜ日本では生まれなかったのか、 という問いも考えてみるべきなのでしょうが、チャージバック問題でクレジットカード会社がどう対応するか、送金ライセンスで行政がどう対応するか、オンライン賭博での検察がどう対応するか、などを考えるとアイデアはあってもそれを潰すのは結構簡単だなと思いました。
多分、当時の日本だとそれを潰す方向性に社会のリソースを使ってしまいそうなイメージです。日本の1990年代の検索エンジン歴史 などを見ると結構面白いのですが、決済の歴史はどのようなものだったのでしょうか。ソニーの決済の歴史が意外に面白かった、みたいな記事はありましたが。