全球観察

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書評『レッドアローとスターハウス』

鉄道や住宅などの「下部構造」が政治的な考え方にどのように影響するのか、当時の西武沿線の団地内コミュニティーが政党の影響下で変質した経緯など、いろいろ示唆的な本でした。

 

特に、団地コミュニティーの議論が、団地や地域生活の改善というよりは、「電車運賃値上げ反対」「家賃値上げ反対」など固定的な主張になってしまったのは少し残念な気がしました。この頃に、団地をもっとしっかりメンテナンスをしていてくれれば、オーストリアやドイツのアルトバウみたいになっていたかもしれません。また、通勤電車が大変だからオフィス街を地域に作ろうなどの主張があるわけでもなく、通勤電車の本数を増やしてレベルの議論なのも残念な気がしました。

 

それにしても、堤康次郎氏を始めとして堤家の方々が西武沿線での生活に全く興味がなかったことが不思議です。美術館となった自宅も墓も沿線にある阪急や東急の創業者との違いは何だったのでしょうか (p277)。

1933年頃の大泉学園の分譲(50万坪)がそこまで人気でなかったのは何でだったのですかね(p37)。当時も住宅難があったと思いますし、1950年以降の怒涛の団地造成を見ると、潜在的な需要はあったと思うのですが。このときの挫折もあり西武沿線への興味を無くしてしまったのかもしれません。西武沿線沿いに保有していた土地は住宅公団に売却され、ソ連っぽい住宅が大量に並ぶ光景が生まれたのでした(p147,p153)。

 

イギリスでは1980年代にサッチャー氏が労働党支持層に打撃を与える意味でも公営住宅の民営化などの住宅政策を展開したその数年後には労働党のブレア氏が首相になるし、公営住宅が寧ろプレミア価値がついて億ションになるなど、政治と住宅政策の関係はつくづく難しいなと感じます。

 

都内の木賃アパートに住む左翼系大学生たちと郊外団地に住む共産党支持者が思想的に必ずしも交わらなかったのは、物理的な側面というか住宅的な側面もあったという指摘は興味深かったです(p235,p307)。共産党が支持を拡大しようとした公営住宅では創価学会が寧ろ支持を拡大していた(p332)、東急沿線では運賃値上げ反対の運動は無かった(p352)、中央線沿いの学園都市である国立市との微妙な違い(p371)など示唆的な感じはしました。
少なくとも、この本に出てくる団地自治会が1970年代に自動車の台頭に反対したのはちょっとセンスが無かった気がします。

 

この本に出てくる団地の後に造成された「歩車分離」が主要設計思想であった多摩ニュータウンとの違いが良く分からなかったのですが、図書館が無かったときに1972年から「なかよし文庫」なる地域文庫を作ったりしていたかと思いますし、土地交通インフラに関しても何か住民の要請はあったように思いますが、政党的なニオイはなかった記憶です。

 

上手く結論は出ないのですが、衆議院参議院の得票率の表や推移があるともう少し読みやすかったと思います。