全球観察

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書評『セゾン文化は何を夢みた』

「セゾン文化」というものが良く分からなかったので読んでみました。

 

「セゾン美術館」の展示を今していたら結構面白かった気がしました。誰かの収蔵品の展示ではなく、まさに現代アートの展示をしていたのがユニークかと思いました。
その最も輝かしい展示が1989年の「ウィーン世紀末 クリムト・シーレとその時代」だそうです。
また、1984年のソ連での「日本デザイン展」はソ連の人たちの世界の認識も少し変えたようです(それがソ連崩壊につながったかは別として)。

こういう展示は、オーナーの堤氏が展示したいものを主に展示していた(p266)とのことですが、著者の言うようにやや上から目線、「文化大革命」的、「ブナロード」的にも感じました。何故か、元部下の方の「文化イベントのプロデューサー」(p199)という文章を読んでもそのように感じてしまいました(この方の、p202で「モダンの5つの顔」を引用しながら、日本の文化からはキッチュしか生まれてこなかった、メインカルチャーが弱い、というような着眼点は面白いと思いました)
「アール・ヴィヴァン」という現代アート専門洋書店が成立していたのも凄いです(今のNADiffの源流らしいです)。

今は「セゾン現代美術館」になっていますが、いつか行ってみたいです。

 

一方で、こういうアート的な活動が西武百貨店での小売ビジネスにどう直結していたのかの分かりにくさは感じました。確かにブランドイメージの確立(「西武」から「セゾン」へのゆるやかな移行)には貢献していそうでしたが。

六本木ヒルズ最上階にある「森美術館」、六本木ミッドタウン3Fにある「サントリー美術館」など見てももう少し上手くやれたのではという気もします。東急が運営している町田グランベリーパークの「スヌーピーミュージアム」とか見ても。
今の「森美術館」や「サントリー美術館」とは違い、「大衆」にアプローチしようとする姿勢は感じますが。

 

この本を読んでいて疑問に感じたのは、こういう文化事業をされていた従業員の方(著者含む)はどういう家に住んでいたのだろう、ということでした。チープな日本の住宅に住んでいてはこんなに高尚な文化事業は難しいのでは、と。
p118でセゾングループの従業員は2万人程度いて、多くの方が文化事業に憧れて入社しており、「セゾン美術館」は従業員ならば無料で入場できるのに、入場者が2万人に満たない展覧会も多かった、というのが示唆的でした。多分、当時の従業員の方は、実際に働いて生活をしているとそういう気分にならなかったのだと思います。働き方とか都市計画とかそうしたところに限界があったのかもしれません。

 

無印良品西武百貨店ではなく西友プライベートブランドとして誕生したのも何か面白いと感じます(p126)。というか、どの国でも百貨店內部から新しい商品が生まれた事例はそんなに無い気がするのですがどうなのでしょう。なお、パルコに関してはこの本にはあまり出てきませんでした。

西友店舗内の1コーナーではなく、1983年に青山に路面店を出すことが重要だった(p134)のも分かる気がします。

 

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