全球観察

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AWSは破壊的だが、OpenStackはそこまで世界を変えない

クラウドコンピューティングはわたくしたちの生活や仕事のあり方を大きく変えている。dropbox・クックパッド・netflixなどにクラウド環境を提供しているAWS(amazon web service)はそのなかでも圧倒的な存在感とサービスの充実感を持ってきた。だが、そうしたAWS主導のクラウドではなくて、自前でクラウド基盤を構築したい人たちのためにOpenStackというオープンソース・ソフトウェアが注目されている。

OpenStackとは?

 ネットワーク・ストレージ・サーバーなどのクラウド基盤を提供するソフトウェアである。ソースコードhttps://github.com/openstack

 私はOpenStackは多分そこまで大きなインパクトを、世界どころかクラウド世界にも与えないのではないか、と思う。大きく分けて3つの理由がある。各企業利益との相反・開発環境構築の難しさ・新しさがないこと。

[各企業利益との相反]

クラウドの市場は大きく競争は激しい。企業利益にとりコアな部分は公開したくないはずだ。その点でオープンソースであるOpenStackは根本的な矛盾を抱えているのではないか。例えば、クラウド世界で無敵と思われていたAWSでさえgoogleが同様のサービスであるGoogleComputeEngineを出すと様々な欠点が目立つようになった。例えば、インスタンの起動時間が遅い・プライベートネットワークの構築がしにくい・ライブマイグレーションが出来ない・ネットワークが遅い(GoogleComputeEngineは確かに早い!)等々。

参考:

http://yourstory.com/2013/12/google-compute-engine-better-than-aws/

http://gigaom.com/2013/03/15/by-the-numbers-how-google-compute-engine-stacks-up-to-amazon-ec2/

こうしたAWSとGoogleComputeEngineの争いを見ているだけでも、ただでさえ現状では使いにくいOpenStackがより革新的なサービスを提供できるとは思えない。それらの商用サービスの行き過ぎた革新的サービスを必要としない別の用途、例えば研究用途など、もあるのかもしれないが少なくとも多くの企業はより革新的サービスを備えたサービスを使いたいと思うだろう。

実際に、昨年CIAの内部システムの構築をIBMではなくAWSが受注したことは、少し話題となった。このようにパブリッククラウドでサービスを磨く→各企業のプライベートクラウド環境を構築→構築・保守・コンサルタントというようなビジネスの流れが生まれつつあるのではなかろうか。

 

[開発環境構築の難しさ]

OpenStackは未だにインストールすることが相当難しい。また、皮肉なことにAWSなどでサーバーを立ててOpenStackを試してみるという人も少なくないはずだが、その場合OpenStackのネットワーク部分を試してみることはほぼ出来ない。こうした開発環境構築の難しさから、少し試してみるということもなかなか難しい。

ソースコードPythonで書かれており比較的読みやすいが、行数はどんどん増えている。ちなみに、他のオープンソースコミュニティに比べソースコード採用基準は最も厳格で公平であるようだ(何故か意外とちょっとした細かい部分でプログラミングの表記に統一性がない)。

このことから保守の難しさが挙げられ、同時にそれをビジネスとしようともしているようだ(http://blogs.gartner.com/alessandro-perilli/why-vendors-cant-sell-openstack-to-enterprises/)。だが、社内エンジニアの数✕外部コンサルタントの数✕時間を考慮するとOpenStackの方が安いというわけには行かないように思う。

 

[新しさがない]

そして何よりも新しさがない。何故今までのvmwareなどを使ったプライベートクラウド構築ではダメなのか。一体OpenStackは具体的にどの問題を解決しようとしているのか?

OpenStackの進捗状況であるblueprintを見ても大して興奮しないのは私だけであろうか。https://blueprints.launchpad.net/neutron

昨年、OpenStackが年一度の国際会議を香港で開いたときのニュースは覚えていないが、全く同時期にAWSがインタンス構築時にGPUを選べるようになったと発表したのは覚えている。AWSは本気でクラウド戦争を勝とうとしているのだな、と思った。そして、使いやすいAPIやwebインターフェイス・どんどん多様になるサービス・値下げの多さ・カスタマーサービスのクオリティを考えるとAWSの総合力及びそれをまとめあげているチームや企業文化は新しい何かを創るだろう、と思った。

 

この2004年のForbesの記事(http://www.forbes.com/forbes/2004/0607/086.html)にあるようにlinuxの発展はIBMの貢献に由来するところが大きい。そして、IBMクラウドという舞台でも主導権を握るべくOpenStackに相当力を入れているようだ。

確かに、彼らのコンサルティングビジネスは、AWSというエコシステムが完成してしまったら全く古い時代の知識を売っているだけになってしまうかもしれない。AWSの昨年の売上は日本円で約3500億円でIBM自体の10兆円弱の売上よりは小さい。だが、AWSが様々なサービスを向上させ、国際展開を加速させ、多くの企業がプライベートクラウドの構築をAWSに依頼する基盤が整ったならば、AWSコンサルティングビジネスも相当規模になるだろう。

 

IBMのLinux戦略―エンタープライズLinux技術のすべて

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