全球観察

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BBCで日中の宣伝戦を見た

先日BBCの"News Night"という番組で、日中の駐英大使が現在の日中間の問題について英国の視聴者に説明するというデイベート?形式の番組がやっていたそうだ。


NEWSNIGHT: Japanese and Chinese ambassadors ...

 

BBCでサッカーのプレミアリーグではなく、敢えて日中の宣伝戦を見るのは結構面白かったので雑感を書こうと思う。なお、一応2〜3回見たが見落としがあるかもしれないが、こうした「宣伝戦」は実際の内容よりも印象が重要という観点から素直に記してみる。

 

まず、こうしたお堅い内容の動画に何故興味を持ったのかというと、それが他国の人々の日本人へのイメージに関わりそのことが自分に取り極めて重要であると思ったからだ。例えば、ヨーロッパやアジア諸国に旅行に行ったとき、自分が日本人であるというだけで旅行の便宜が計られたことが多々あった。同様に、旅行だけでなく、人間関係・恋愛・ビジネス等でも日本及び日本人への良いイメージ・理解があることは長期的観点から自分にとり利益のあることだと思う。そういう意味で、そうしたイメージ上の日本がどのように表現されているかを知っておきたかったのだ。

 

結論から言うと、

  • 日本大使は、頭の回転は早く正当に思える普通のことを言っているが、テレビ映りの印象が悪かった。外国人にとっての、典型的な日本人ビジネスマンのイメージだと思う。出来れば、もう少し印象が良く、ユーモア的な知性もあり、セクシーな感じであってほしかった。
  • 中国大使は、逆に英語も上手く、比較的印象も良いが、少し政治的な印象もある。また、質問の内容に必ずしも正確に答えていないので、印象で判断しない視聴者にとってはネガティブなイメージとなっていたのではないか。カイロ宣言を強調しながら、カイロ宣言の年を1945年と言っていたのは、中国共産党宣伝部長から見れば自己批判の対象?
  • 英国のインタビュアーは、日本大使にも中国大使にも相当本質的なするどい質問をしていてバランスが取れているように思えた。英国視聴者は、日本の立場と中国の立場をかなり理解できたのではないだろうか。ただ、日本人は彼らが感じたよりもう少しユーモアのセンスがありフレンドリーだと理解して欲しい。
日本

このホームページを見て欲しい。http://www.uk.emb-japan.go.jp/ 林景一大使への率直な印象はこんな感じだ。HTML5とCSS3を大胆に使い、Javascriptを多用し、モバイル対応もしっかりしている訳ではないこの駐英国大使館ホームページのように、この番組での林大使の印象も分かりにくく・古臭く・興味も持てない。このサイトで30分以上もネットサーフィンをしたいと思う人が居ないように、林大使の意見も 長時間に渡って聞きたいと思う英国視聴者は居ないだろう。

ただ、話を良く聞いていると、頭の回転も早そうで質問に対する答えも日本国籍保有者として納得出来るものだった。日本はこの60年間弱国際平和への貢献をしている、中国は国際法に基づいて行動すべき等々。ただ、最後に強調していた「対話の必要性」はもう少し説明が必要なのではないか。

両国の方向性に差異が存在し、軍事力で解決するべきで無い以上、対話で差異を解消すべきである、ということなのだと思うが、対話をし合う事で緊張緩和となるという具体的イメージが湧かなかったのだ。私としては「ビジョン」を提示して欲しかった。つまり、次の数十年に関して日本政府はアジア太平洋地域に対して〜〜のような「ビジョン」があり、その「ビジョン」の実現のために中国との「対話の必要性」があるというようにである。同時にその「ビジョン」を英国視聴者やBBCを見ている他国の視聴者にも、理解し賛同し利益を感じてもらえるようにするべきだと思う。そして、日本がこの60年間弱してきたこと("track record")を見れば、地域に対して平和・経済的繁栄を次の数十年間で実現する「ビジョン」も力もあるのだと説明して欲しかった。

そして、全体的にユーモアと笑顔が必要だった。林氏はきっといつも通り話されていたらもっと日本の「国益」に貢献していたと思う。

 

中国

中国の劉暁明大使が話し始めた瞬間、こういう大使が自分たちの大使だったらな、と思った。だが、説明内容は少し感情的で知性に乏しく、意外に分かりにくかった。

BBCのインタビュアーが

①戦後のある時期から突然靖国参拝反対

②戦後のある時期から突然尖閣諸島は自分たちのもの

と主張し始めたのは何故か、との質問に対してはあまり明瞭な回答をしていないと思った。

①に対しては、 A級戦犯が1978年に合祀('move in')し1985年に当時の内閣僚全員が参拝してから反対したと言っているが、1985年まで鈴木首相などが参拝していたというシンプルな事実で反証される。まあ細かい事実なのであるが。

日清戦争のあと非合法に日本政府が尖閣諸島を奪取し、カイロ宣言にある通り日本政府により非合法に取得された領土は返還されるべき、というが日本政府による編入が非合法であるという根拠を示すべきなのではないか。

また、インタビュアーのカイロ宣言はいつ発表されたのかとの問には「1945年」と答えており、自信のある受け答えとは対照的な無知を示してしまった (http://en.wikipedia.org/wiki/Cairo_Declaration)。私には中国共産党中央で決定された事項をしっかり咀嚼出来なかった可哀相な人との印象を受けたが、英国視聴者にはどのように見えたのだろうか。

ちなみに、カイロ宣言を現在の中国の政権は強調するが、中華民国時代の外交条約を全て継承することにデメリットはないのだろうか。

ただ、全体的に、パッとしかテレビを見ない視聴者や細かい事実を気にしない視聴者に対しては日本が不可解な軍事化路線を歩んでいるという印象を与えることは出来たのではないか。細かい事実を気にする視聴者は京劇の練習を見ている感覚に囚われただろう。

英国

恐らくこの番組の勝者は英国である。バランスの取れた取材姿勢・質問内容は英国の柔軟な外交力を感じることが出来た。

彼らにとってはアジアがどうなるべきかという理想の押し付けよりは、どうなっているのかという現実の理解をベースとしたビジネスを展開していくことが利益なのだろう。アジアの秩序が現在どのようなものなのか、英国視聴者は良く理解出来たに違いにない。ただ、彼らがまだ知らない変数は、林大使をはじめとする日本人のコメディセンスである。

 

最後に

このBBCの番組で取り上げられていた質問(軍国化・尖閣靖国等)は全て日本側が国際社会に提起したものではないく中国側が作ったアジェンダだ。日本政府も国際社会に様々な提案をしていくべきなのではないか。例えば、「学問的真理追求のために言論の自由」を政府は保証すべきであるということや「様々な資料を公開」しオープンな政府を作るべきであるなどである。こうした提案は2つの目的がある。

1、中国側の問題提起を国際的な言論空間ですり替えてしまうということだ。というのも、囲碁の「手抜き」ではないが、中国の提起に一つ一つ反応する必要もなく、寧ろ先手を取り日本側に有利な状況を作って行くべきなのではないか。例えば、歴史問題は言論の自由や学問的真理追求の自由の問題にしてしまえば、中国側もやり辛いのではないだろうか。

2、アジアに於ける日本社会の安定性や民主性を強調することだ。特に、富裕層に対して資産の運用先の有力な候補として、若年層に対して留学先の有力な候補として日本を位置づけてもらう流れを作るべきで、同時にそれはアジアの発展を日本に取り込むことになる。アジアで最も政治の透明性が高く社会が安定している国はまだ日本であることは明らかなので、単なる経済発展では得ることの出来ない、生活のクオリティを示すべきだと思う。

中国側の問題提起を非=問題化し、日本側が問題を提起していき、アジアの発展を日本にも取り入れていくこと。

以上のような提案を具体的には実現するにはどうするべきか。例えばどこかの英米紙の広告欄を買って、靖国尖閣がどうのこうのと書くのではなく、「中国共産党宣伝部長募集」のような求人広告の体で、中国共産党の政治スローガン的コミニュケーションを茶化し、民主主義国家・日本を印象づけてみるのはどうだろうか。