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書評『都市の魅力学』

都市とは何か、イノベーションはどのようにして起こるのか、何故日本の地方都市は中途半端なのか、日本の地方税制にはどのような歴史がありどのような問題があるのか、等々大変おもしろい本でした。

 

まず、1880年(明治13年)の人口No.1が新潟であったこと、東京が5位でしかなかったことが驚きます。

戦前の激しい人口移動も印象的です。東京・大阪・名古屋が人口上位3位になったのは1930年頃でした。

 

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大阪の衰退傾向も印象的です。本書出版後には人口も横浜に抜かれ、2020年には減少に転じています。松下電気、サントリー、日清、ダイエーと全国区の企業を沢山輩出しますが、多くの企業が本社機能を東京に移してしまいました。そして、万博、関空などの政治プロジェクト依存傾向を強めました。

 

京都は江戸時代には高級な工芸品の生産地でしたが、明治維新以降皇室・公家の東京移転や海外製品との競争に苦しみます。ただ、荒木小兵の機織り機の近代化、琵琶湖疏水事業、京大誘致などで復活します。そして、京都外の出身者の活力も生かしながら、ワコール、村田製作所任天堂、京セラ、日本電産オムロンロームなどの企業を輩出しますが、京都の道路事情が悪いこともありこれらの企業の工場は必ずしも京都エリアにはありません。イタリアと違い伝統工芸は必ずしも現代ブランドにはなりませんでした。製造業出荷額は2.9兆円で神戸と同じくらいです。

名古屋は、1877年の臥雲辰致のガラ紡績機により綿工業が発展します。1904年には豊田佐吉が自動織機を発明します。第一次大戦の戦争景気もあり、きしめんを作る機械を作っていた大隈鉄工業が工作機械に進出する食器製造のノリタケが工業製品の製造に進出するなど、工業地帯としての厚い層を形成していきます。そして、1930年頃に豊田佐吉の自動織機の工場から自動車が開発されます。また、呉服屋だった松坂屋は1910年に百貨店となっていました。

第二次大戦後の復興計画は田淵寿郎が指揮し、100m道路など独自の交通インフラが形成されました。

生産拠点、消費拠点、豊かなインフラなどがある街ですが、必ずしも東京に匹敵するような極にはなれていません。それは、新しい人材を誘致できていない、活かしきれていないからだと著者は指摘します。

 

諏訪では、中山社が安価で効率が良い諏訪式繰糸機を開発します。そして官営の富岡製糸工場よりも遥かに効率のよい製糸業圏が形成されます。そこから片倉財閥が生まれるなか、セイコーシチズンの腕時計、オリンパスのカメラ工場など精密機械工業の展開へとつながります。

 

浜松では、政府の払い下げにより、1884年(明治17年)ごろより遠州織物の紡績工場が作られていました。アメリカ製オルガンの修理を頼まれた山葉寅楠 は貴金属加工職人であった河合喜三郎と一緒にオルガンの製造に着手します。伊沢修二の指導もあり、1890年の内国勧業博覧会で受賞するレベルの製品を作り上げます。山葉の挑戦心、様々な出会い、そして紡績業周辺の金属加工技術の蓄積などもあり、この地域から国産ピアノが生まれます。また、ホンダもこの地から生まれています。

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広島も紡績機を購入しましたが十分に発達しませんでした。ただ、1989年に開港した宇品港は海軍工廠 の拠点となりました。可部の風呂釜、広島針、仁方ヤスリなどの伝統工業が近代化したこともあり広島には独特の金属加工技術が蓄積されていました。アヲハタの缶詰などは軍需産業と金属加工技術の融合の象徴かもしれません。そしてもともとはコルク栓の工場だった会社がマツダとして自動車会社となりました。

 

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博多は商業の街から政治・行政の街として発展しました。さらに大学や高校の誘致に成功して文教の街ともなりました。製造業は官営八幡製鐵所のあった北九州に集積したようです。しかし北九州の製造業の経営者は北九州ではなく博多に住みました。札幌、仙台も同じような類型の街とのことで、仙台の場合は山形が製造業エリアになるようです。仙台も山形も支店経済率が高いようです。

 

1962年に計画された新産業都市工業整備特別地域 は必ずしも成果を上げることなく、2001年に廃止が決まりました。

 

道路が悪い、家賃が高い商店街、テレビ放送の少なさ、農振法への中途半端な態度など地方都市が自らの街を良くしていこうという意欲があまりないのではと指摘しています(p140)

危険な通学路の放置も気になります。

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地方の活力を削がれている背景として、シャープ勧告があるようです。実際に戦後は各県で県庁所在地の一極集中化が人口・経済の面で進みました。

最近では、「居心地が良く歩きたくなる」街を推進するための国交省のウォーカブル推進事業がありますが、歩きやすくする街を作るぐらい各自治体が自分たちの財源で好きなようにやればよいのにと思ってしまいます。

 

建設線制度、都市改良の目的税を無くした一方で、不動産譲渡税引き上げ、戦後混乱期の一等地の不法占領既得権の容認などが問題であるとの指摘も今とあまり変わらないかもしれません。都市計画することよりも未来を変更しやすくする制度(p174)はどのようなものなのでしょうか。

 

同じくらいのGDPで地価が違うのも興味深いです(札幌と福岡・神戸・京都)。一人あたりGDPで見ると違う結果になるかもしれませんが。

 

 

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