全球観察

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書評『日本の都市のなにが問題か』

アメリカの住宅ローンはノンリコースローンである、というような記述があったりしましたが経済学の観点からの不動産市場への提言に関して、色々と参考になりました。

 

ニューヨークの昼夜人口比率が概ね100%であり、丸の内エリアは2000%程度である点などが紹介されていましたが、ニューヨークの通勤時間も長そうです。ロンドンでもあるようなピークロードプライシングは面白そうです。

都心部の高度利用→容積率緩和という議論も重要だと思いますが、国土の有効利用が出来ていない点の方がもっと問題だと思うんですよね。東京の都市計画道路の未開通区間が多すぎることによる損失、東京の環状鉄道構想「東京山手急行電鉄」があったときの価値、とかも知りたかったです。木造密集地帯問題の解決方法として紹介されている「TDR(開発権譲渡)制度」で日本の用地買収はスムーズに行くのでしょうか。

都心部の土地が有効利用されていないことが経済成長していないイメージと結び付きやすいと思うのですが、どちらかというと各自治体財政が高齢者予算及び既存インフラメンテ予算に振り向けられがちな点にも注目しても良い気がします。

例えば、東京都心部容積率が制限されていたならば、なぜ郊外立地がもっと発展しなかったんですかね。オフィスが郊外立地や地方都市に集積しないのはなぜなのか知りたかったです(マイクロソフトのシアトル本社もコカコーラのアトランタ本社もミシュランのクレルモン・フェラン本社etc)。

 

景観の問題として、国立のマンション訴訟の事例を参照しつつ、「プットオプション履行義務付き開発許可制度」を紹介していますが、良い景観が全て市場価値に反映されると考える前提が良く分からないです。パリのa通りとニューヨークのb通りと軽井沢のc地区の美しさは市場価値で評価・比較出来るのでしょうか。

国立のマンション訴訟の件に関しては、最高裁が指摘するようにマンション建設は当時の法規制には違反していなかった点が重要だと思います。西武創業者の堤康次郎氏が苦労して作り上げた街 は分譲当初は建築協定のようなものがあったようですが、それが形骸化し更に用途地域もマンションが開発出来るように何故か指定されていました。こうした経緯を知ると、戦前に作られた多くの高級住宅街が戦後に住環境が劣化していった事例の一つにしかみえないです。何故そのような用途地域の指定にしたのか、なぜ事前に適切な法規制を形成しなかったのか、ここには住民のエゴがあるように思われます。そしてそれこそが景観を維持できない重要な要因の一つなのでしょう。勿論そのエゴを生んでいるのはいびつな相続法制かもしれません。

 

日本でファミリー向け賃貸や良質な賃貸物件が多くないのは借地借家法が既存借り主を保護しすぎているという論調ですが、URや分譲賃貸である程度のニーズがまかなえている&持ち家の住宅ローンが賃料と同レベルの水準&賃貸の供給者が相続対策などの素人が多いとかの要因もあると思うんですよね。

幕張ベイタウンパティオス20番街(千葉県)の賃貸物件|関東エリア|UR賃貸住宅

 

パークタワー晴海|三井のリハウス

 

月40万ぐらいしますが、「ラ・トゥール新宿」だと18件ぐらい空きがありました。

 

中古不動産流通市場についての提言もちょっと中途半端な気がしました。確かに、アメリカの不動産情報に対して、REINSは課題ありますが、アメリカの不動産情報も「住宅性能」「自然災害に対する性能」はあんまり無い気がします。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200203/200203seicho06.pdf

 

ただ、各MLSは接続しにくいそうですが、アメリカの不動産データの集約やAPI化などは不動産エージェントの業界団体が主導して行なっていると思います。一方で、日本の不動産仲介業界団体は情報を隠す方向性のイメージがあります。結果として、前者の試みは中古不動産市場の拡大につながり、日米の不動産エージェントの平均年収を見てもアメリカの方が全然収入を得ていると思います。こうした業界団体のモチベーションの違いはどこから来るのか、不思議です。

 

アメリカで30%も注文住宅があるのはビックリしましたが、住宅ローンを引くときにFHAガイドラインによりかなり住宅が標準化されると思われ、住宅を選ぶ人はエリアを選んでいる感覚の方が強い気もします。
なお、そのエリアの不動産価値は学区の価値でほぼ説明できるところ、学区の価値はそのエリアの不動産税で説明できる、というように、良いエリアがより良くなるループみたいなものが結局アメリカの経済格差を生んでいるようにも思います。

2008~9年の経済危機を招いたアメリカの住宅ローン制度がどこまで良いのかは分かりませんが、住宅購入時の資金調達方法が想像以上に多いのは市場メカニズムが働いているのだと思います。ただ、この市場メカニズムが働くための制度やデータ公開などの設計は政府が主導していると思われます。

ヨーロッパにしろイギリスにしろオーストラリアにしろREINSみたいなデータベースが無いが中古不動産流通市場が活発な国も多いみたいです。こういう国の不動産情報はどのように整備されているのでしょうか。

 

高齢者が保有不動産を容易に売却できれば、不動産市場がどうなるかは面白そうです。この辺の議論は高齢者のバランスシートを見たいですね。

リバースモーゲージの普及に関しては、アメリカの事例を見ても、「政府の役割」がむしろ重要な気がします。

 

災害復興が被災前の状態に戻すことが原則になっているのがモラルハザードを生んでいるという指摘は面白かったです。

 

建て替え法制に関して、アメリカのコンドミニアム法についてもう少し知りたくなりました。

 

多分、この著者と「日本の都市のなにが問題か」という点で全然違う気がしましたが、逆に自分は何を問題としているのかを考え直すきっかけになりました。

 

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