全球観察

全世界の様々なトレンドを記録していきます。

書評「安売り王一代」

ドン・キホーテとは、日本特有の中間流通+チェーンストア理論に対するアンチテーゼというのが腑に落ちました(P183)。
全国の店舗拡大がドミナント的戦略ではなく、寧ろそれに対するアンチテーゼのように遠方から展開していった(P119)のも不思議です。独特の売り方はP205にあるような売り手と買い手の境界をファジーにするところに肝がある気がしました。各店舗への権限移譲に関しては既知のこと以上は記載されていませんでした。こうした独特のノウハウは真似は容易に真似出来ないのでしょう。資金調達については特に記載無かったです。

深夜営業等は治安悪化が懸念されますが、いくつかの事件が起きるまではあまり対策がされていなかったのは印象的でした。

 

最終章の、距離感の達人になれ、人を見抜くことは出来ない、運に対するレバレッジというのも参考になりました。在庫を抱える小売とはつくづくギャンブルを毎日しているようなものだと思います。そういう意味で「知恵」だけでなく、「勇気と胆力」で攻めれる人や組織が生存するのでしょう。

youtubeで見てみるとシンガポールや台湾などの店舗も結構面白そうです。何が違うのか言語化しにくいですが、エンタメ感が強い感じでしょうか。日本のドンキも多くの店舗がそこまで面白くなくなってきている気もしており、安かろう悪かろうのイメージも強くなってきたので、逆に海外店舗から新しいドンキの可能性もある気がします。

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書評「成城石井の創業」

成城石井がある街はかなり好印象なのですが、小売でブランドを作るというのはどういうことなのかと大変興味深く読みました。

単なる高級路線のスーパーではなく、「駅ナカ店舗」「惣菜」「セントラルキッチン」「PB」「サテライト店舗」などの小売イノベーションを推進していたこと(場合によっては日本初だったこと)が印象的でした。
特に、ファミレスの台頭を働き方の変化や家族のあり方の変化と解釈して「惣菜」需要を読み取ったのはすごいなと感じました。ところで、「セントラルキッチン」は町田にありますが、最近増えたみたいですね。商品によっては青葉台店で作っているのも面白いです。

ワインを飲み頃で売るために在庫を数年単位で抱えていたのも凄いなと思います。ワイン以外でも様々な食材で直接買い付けをしており、更にそこから情報を集約し次の企画に活かす体制を作っていたとのことです。カテゴリごとに陳列しているところ、そうした情報は新しいカテゴリの発見にもつながります。
こうしたことを積み重ねて小売のブランド=他店には無い商品がある・良い商品がある・買い物が楽しいが形成されたようです。


早速、これまで買ったことが無かったコーヒー豆やパンを買ってみたり、アプリをダウンロードしてみたりしました。この本ではPOSの導入やリアルタイムデータ分析の話が出てきますが、アプリがやや絶望的に使い辛い系なのが残念でした。。。アプリのデータを使えばもっといろいろな分析が出来ると思うのですが。紀ノ国屋、明治屋、カルディ等々のスーパーと比べて良い人材が集まらなくなってきているのかもしれません。

 

アメリカにはスチューレオナードいうスーパーがあるのでそちらもいつか行ってみたいです。

ちなみに、こういう高級路線のスーパーの具体的な方法論を知れば知るほど、セゾン文化なるものがますます単なる記号の操作にしか過ぎなかったのではという気もしてきます。

 

書評「SONYの旋律」

この本は面白すぎますね。何故新刊で手に入らないのでしょうか。
「ソフトとハードは車の両輪」的なソニーのビジネスモデルが結構分かった気がします。ハードでの継続的なイノベーションマーケティングをするためには、ソフトの資産が必要、ということなのだと理解しました。1968年頃のCBSレコードを日本で大量生産するために作った工場がCDやPSソフトの大量生産工場に変化したこと、PS事業もそもそもは任天堂にCD-ROMを売ることが契機であったこと、「VHSとベータマックス」の規格戦争でコンテンツが勝敗を左右したことなども示唆的に感じました。

アップル社がapple musicなりapple tvなりを展開しているのを見ると当時のソニーは非常に先駆的であったのではないでしょうか。個人的には、マイクロソフト社などがnetflixを買収するなどして、ソニーが1989年にコロンビア・ピクチャーズを買収したことの先駆性を改めて世界に再認識して欲しいところです。

1979年のソニー生命設立前にソニーの輸出貨物保険の延長で再保険事業をしていたり、プレステのコントローラーは著者の趣味の飛行機の操縦管に着想を得ている側面があったりなど知らないエピソードも多かったです。

1984年の総会屋対策としての13時間の株主総会も当時の日本企業のガバナンスを考えると凄い勇気と信念のあることに見えます。何故他の企業(特に金融機関)が同じことを出来なかったのでしょうか。

ソニーは井深さんと盛田さんのイメージが強いですが、大賀さんがいなければ全然違う会社になっていたと思います。つくづく組織は人であることを痛感しました。

 

 

書評「セゾン 堤清二が見た未来」

ファミリーマート、パルコ、無印、ロフト、クレディセゾン吉野家、リブロ、J-WAVE、イープラス、西友西武百貨店...とたまに使うサービスの源流を知りたくて読んでみました。

その当時の何かに対する「アンチテーゼ」でこれらのサービスは生まれたようです。そして、多くの場合、「資本の論理」に対する「人間の論理」であったようです。とはいえ、この本や当時のCMを見る限り、結局は話題作り先行で記号の操作をしているだけであったようにも見えます。

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セゾングループ西洋環境開発が開発したニュータウンも悪くはないのですが、どこか中途半端に見えます。なお、セゾングループの崩壊の直接的原因は不動産事業、特にリゾート開発、であったようです。

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セゾングループが手掛けた上記のサービス群もどれもそのカテゴリで1位に位置しているとは言えないと思います。「資本主義の効率至上主義で本当に豊かな生活になったのだろうか」みたいな問題意識から色々手を広げても結局どれも中途半端になってしまうというテーゼを教えてくれるような本でした。

日本社会の不動産バブル時のなんとも言えないチープさというかバブルが崩壊しても復活できなかった理由も何となく分かりました。セゾングループが手掛けた多くの文化的事業がチープに見える今、最も足りなかったのは「資本」であった気もします。

なお、この本で知ったのですが、無印良品中国でのホテル業は面白そうです。